第31話 戦車より先に、地面 転生特典は米軍払い下げ?〜弾丸1発1ポイント。ハンヴィー1台から始める異世界軍事立国、気づけばイージス艦まで揃ってました〜

《転生およそ114日目・昼前》

 十五万APの戦車は、目録の中で目を覚ました。

【主力戦車(M1A2):150,000AP】

 青白い枠の中で、低い車体と長い砲身が斜めを向いている。|履帯《りたい》の上へ砲塔を載せ、正面には厚い装甲。百二十ミリ砲と重機関銃。夜でも敵を捉える目。

 これが走れば、採石道で狼型二十体に囲まれた時の戦い方は変わる。M240を荷台へ据え、逃げる七体を見送りながら三十人を守った火力より、さらに先がある。

 指を動かすと、次の値札が開いた。

【戦車回収車(M88):100,000AP】

【架橋戦車(AVLB):120,000AP】

【155mm牽引|榴弾砲《りゅうだんほう》:40,000AP】

【120mm戦車砲弾:200AP/発】

【現在残高:12,725AP】

 本体だけでも、今の残高の十倍を超える。しかも、買った瞬間に戦えるわけではない。

 乗員は四人。砲弾、燃料、整備場所、歩兵の護衛。動けなくなった時に引く車。通れる道と橋。そして、誰の命令で、何へ砲を向けるのか。

 さっき開いた二トンまでの共同道へ、六十トンを超える車体は載せられない。

「旦那。さっきから、何を見とる」

 ガルムには目録が見えない。俺は青白い表示を閉じ、|道路方《どうろかた》が使った目盛り縄を取った。

「走りながら撃つ、鉄の城です」

「城が走るのか」

「はい。だから、城が通れる地面が要ります」

 仮|暗渠《あんきょ》を避けた硬地へ、縄を伸ばす。俺の単位で砲身を含めておよそ十メートル、幅は三・七メートルほど。道路方の書記が杭を持ち、俺が示す位置へ一本ずつ打った。

 縄で囲まれた長方形は、さっき麦八袋を運んだ荷車をすっぽり隠した。それでも、これはまっすぐ止まった時の大きさにすぎない。

「旋回するなら、外側をもっと空けます」

 俺が別の縄を弧にすると、ミアがその内側を歩いた。途中で立ち止まり、左右の杭を見比べる。

「たいちょう。これ、まがれるところ、ある?」

「今は、ありません」

 正直に答えた。

 道路方の男が、仮暗渠の再開札を縄の横へ置く。

「この車が、今の道の三十台ぶん以上の重さなら、通行印は出せません。許可札を三十枚重ねても、地面は三十倍にはならない」

「敵へ着く前に、味方の橋を食う兵器か」

 ガルムは縄の端を靴で押さえた。

「前へ出せても、戻せんのでは捨て駒じゃの」

「だから、戻す車も棚にあります」

「その車がまた、道を食う」

「はい」

 笑うしかなかった。

 戦車を買えない理由を数えるのではない。初陣までに埋める欄を数える。

 俺は道路方の|蝋板《ろうばん》へ、八つの枠を引いた。

 任務。乗員。道と橋。燃料と砲弾。回収。整備。同行する歩兵。発砲を命じる権限。

 どれも、まだ空欄だ。

「この条件板は、商会の道を作る札ではありません」

 道路方の男が言う。

「重い車が通れる共同の道を検めるための板です。商会が車を持っても、通行権まで持つことにはならない」

「それでお願いします。最初の欄は、道を造ることではなく、地面を測ることからです」

 俺は目録を開き直した。

「戦車より先に、地面を測ります」

 麦を積む次の荷車は、|第三荘倉《だいさんしょうそう》前で待っている。初便八袋を通した路面を一晩置き、翌朝の沈みを測るまでは、追加の積載車を出さないと道路方が決めていた。

 ◇

 午後、共同道の硬地へ人と馬の入らない円を取った。

 |荘代《しょうだい》と道路方、それに調査線の土地を持つ二人が、日のある間だけ上から見ることへ印を置く。見ただけで土地の境も工事権も変えない。地上へ入る時は、改めて持ち主の札を取る。

 候補線の白印は、公道の道境と、所有者が立ち会った草地の境界杭へ一つずつ結んだ。二点の間を空から見るだけで、草地の中へはまだ杭を打たない。

 発電機を置く登録補給地点も、砕石の締まった場所へ決めた。排気は天幕と馬から風下へ向ける。

 青白い目録へ、購入欄を並べた。

【偵察用小型機(市販級クアッド・熱線カメラ付):-300AP】

【予備電池×4:-80AP】

【充電ステーション(10機同時・発電機接続):-400AP】

【操縦訓練用シミュレータ一式:-500AP】

【発電機セット(村落用):-1,000AP】

【合計:-2,280AP】

【現在残高:10,445AP】

 十秒後、硬地へ発電機とケーブル、投光器二基、二十リットル缶が現れた。その隣には充電台と訓練機材の箱。俺の足元には、黒い携行箱が一つ届く。

 二十リットル缶は、排気と乾いた草から離し、|土嚢《どのう》の向こうへ移した。砂|桶《おけ》も置く。電気を作る場所で、火まで作るわけにはいかない。

 蓋を開ける。

 折り畳まれた四本の腕。先端の羽。腹には小さなカメラ。狼型を倒す銃も、荷を持ち上げる爪もない。

 空から地面を見るための目だった。

「これが、さっきの城を走らせるのか」

 ガルムが片眉を上げる。

「道を間違えて造るのを、一度減らします」

「一度か」

「森の下も、土の中も見えません。これだけで決めれば、別の間違いをします」

 機体付属の一本と予備四本、合計五本の電池へ番号札を付けた。充電台、発電機、訓練機材にも、商会所有と道路調査用の札を分けて掛ける。

 発電機の始業点検をして、排気側をもう一度空ける。機体の羽を回す前に、まず訓練画面を起動した。

 充電台へ電気が来ている表示も確かめる。五本の電池はまだ載せず、接続試験だけで外した。

 |操縦桿《そうじゅうかん》を倒すと、画面の中の機体が浮く。

 最初の曲がりで、俺は速度を残しすぎた。仮想の木へ機体が触れ、画面が赤くなる。

「落ちたの」

 ミアの耳が、画面へ向いた。

「練習の中で、です」

「ほんもの、こわれない?」

「だから、先にこれをやります」

 ガルムが腕を組む。

「鉄の城より先に、空の虫を殺したの」

「本物でやるより安いです」

 値段は言わない。俺が仕入れに使うAPは、まだ三人にも見せていない。

 道路方は笑わず、訓練札へ線を引いた。

「浮かす者、地上を見る者、時刻と場所を書く者、落ちた時に拾いに行く者。四つが決まるまで、実機は飛ばしません」

 操縦は俺。地上の音と人馬を見るのはミア。飛行時刻と画面を写すのは道路方の書記。回収と安全線はガルム。

 誰かが欠ければ、その日は飛ばさない。

 日が傾くまでに、仮想の離陸と着陸を三度ずつ繰り返した。ガルムも操縦桿を握ったが、二度目の着陸で機体を横へ流した。

「風は見えんの」

「布は見えます」

 翌朝の離着陸点へ、細い風見布を四本立てた。

 買ったのは機械一つではない。飛ばす人、止める人、電気を作る物、失敗しても壊れない練習までを、一つの班にした。

 ◇

《転生およそ115日目・朝》

 雨はなく、四本の風見布は同じ向きへ弱く流れていた。

 発電機の燃料残量を見てから、始業点検をする。自動で補給される機械ではない。使った分は、人が缶を運んで戻さなければ次は飛ばない。

 機体の腕を開き、羽の傷、電池番号、カメラ、操縦画面を確かめる。昨日使わなかった機体付属の電池を一つ装着した。予備四本は番号箱のまま、施錠天幕に残す。

 離着陸線から人を下げ、馬はさらに遠くへ移した。道路方の書記が砂時計を返す。

「調査飛行、一回。共同道と印のある土地の上だけ。見通しを失う前に戻す」

「了解」

 四つの羽が回った。

 高い唸りに、ミアの耳が伏せる。馬が首を振り、護衛が|手綱《たづな》を短くした。

 機体が土から離れる。

 人足の声が一瞬止まった。

 膝の高さ。俺の肩。仮設暗渠の上より高く。黒い機体は見えない柱を登るように浮き、朝日に小さな影を落とした。

「おおきい、はち」

 ミアが言った。

「刺されるなよ」

 ガルムは空ではなく、落下線の外へ人が出ていないかを見ている。

 操縦画面には、俺たちの頭が映った。

 少し上げる。

 三日かけて測り、掘り、埋め、麦車を通した三十メートルが、画面の中では指一本ほどになる。仮暗渠の上を走る二本の|轍《わだち》、旧採土場への行き止まり、戻した冬畑の表土まで、一枚に収まった。

 石工が、画面と足元を見比べる。

「あの穴が、もう見えん」

「埋まったからではありません。小さくなっただけです」

 空から見えなくなった危険は、なくなった危険ではない。道路方の書記は、仮暗渠の位置を画面の写しへ先に書き込んだ。

 さらに高度を取ると、第三荘倉の屋根、共同道、北街道へ続く分岐が同じ画面へ入る。

 地上では畑と草地に遮られていた線が、空からはつながって見えた。

「二本の白印を結ぶ線へ向けます」

 戦車用ではない。将来、重い車が北街道から工事地へ入るなら、どこを調べるか。その最初の候補線だ。

 画面上では、草地を斜めに抜ける直線が最も短い。大きな木も家も避けられ、今の仮暗渠を渡らずに済む。

 道路方の書記が、その線を紙へ写し始める。

 林際へ近づいたところで、画面が斜めに揺れた。離着陸点の風見布は弱いままなのに、木の上だけを横風が抜けている。

「境へ寄るぞ、旦那」

 ガルムの声と同時に、道路方が赤布を上げた。訓練画面で木へ触れた時と同じ角度だ。

 俺は前進を止め、機体を白印側へ戻す。高度を保ったまま、林から距離を取った。

 地上の風が弱くても、上の風まで弱いとは限らない。見通しがあっても、飛べる線とは限らなかった。

「温度の画面へ替えます」

 色が変わった。

 畑はまだらに明るく、草地は暗い。その中を、さらに色の違う帯が弧を描いていた。

 二本の白印を結ぶ直線を、横から切っている。

「水ですか」

 道路方の男が|訊《き》く。

「温度が違うことしか、まだ分かりません。湿った土かもしれない。草の種類かもしれない」

 高度を下げ、帯の両端が分かる範囲をゆっくりなぞる。地表で見える水路とはつながって見えない。けれど、弧は一か所だけで消えず、林の手前から低い草地を回り、古い土手の陰へ続いていた。

 画面だけなら、真っすぐな道を少し曲げれば済む。

 草地の持ち主が、画面の端を指した。

「空からでは、うちと隣の境石が消えます」

「だから、これを境界図にはしません」

 道路方の書記は、紙へ土地札の境を重ねた。上から一枚に見える草地も、持ち主と使い方までは一枚ではない。

 水路番が画面と地面を交互に見る。

「祖父から、大水の年だけ昔の川筋が戻る、と聞いたことがあります。場所までは、誰も札にしていません」

 昔話は、測量結果ではない。

 空からの色も、昔の川筋の話も、それだけでは道を止める証明にならない。だが、六十トンを超える車を先に載せて確かめる場所でもない。

「戻します」

 機体を旋回させる。残りを使い切らず、同じ離着陸線へ下ろした。

 羽が止まってから道路方が近づき、機体付属電池へ〈一回使用・冷却〉の札を付けた。予備四本は未使用。機体の腕とカメラに傷はない。

 画面の写しと飛行時刻は、重車両回廊の調査|原簿《げんぼ》へ|綴《と》じる。

 唸りが消えてから、ミアは共同道の縁を歩いた。弧の端が最も近づいて見えた場所で止まり、地面へ片耳を向ける。

「たいちょう。みず、いる。あさいのと、ちがう」

 方向も深さも、まだ分からない。空の色と地面の音が、同じ場所へ疑問を置いただけだった。

 着陸後、土地の持ち主二人は、候補線の白印を回収し、赤杭と保留札を置くためだけの一回立入へ、別の印を置いた。試掘、測り棒、工事は含めない。

 それから俺たちは、真っすぐな候補線の白印を外した。

 弧の両側へ赤い杭を打つ。

「この間は、地上で水と土を検めるまで工事線にしない」

 道路方の男が札へ書き、荘代と土地の持ち主が印を置いた。旧い川筋かどうかは未確定。赤杭の内側へ調査で入り、試掘するには、次の札が要る。

 俺は八つの枠を引いた条件板へ戻った。

 道と橋。その欄へ、〈空からの調査開始〉とだけ書く。

 まだ、道ができた印ではない。

 だが、悪い直線を一本捨てた。

 目録には、残高内で買える一万APの土工機械と、一万APの測量機材が残っている。どちらも、あの弧の正体を知らないまま置けば、地面へ沈む高い買い物になる。

 戦車より先に、地面。

 地面より先に、測る。

 戦車への道で最初に決まったのは、通る線ではなかった。

 通してはいけないかもしれない線だった。

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※ここから下は「あとがき」欄に貼る部分。

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【第31話 収支(AP)】
期首 12,725
収入 0
支出 2,280
期末 10,445
累計 100,315/システムLv4

【第31話 現地通貨】
期首 自由金 銀貨26枚+銅貨12枚
収入 0
支出 0
期末 自由金 銀貨26枚+銅貨12枚

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