第13話 城門は二つある 転生特典は米軍払い下げ?〜弾丸1発1ポイント。ハンヴィー1台から始める異世界軍事立国、気づけばイージス艦まで揃ってました〜

《転生およそ39日目》

 出発前、荷の確認を終えたトメ婆が車から離れるのを待った。ハンヴィーの扉を閉め、一人になってから、格納庫に入れた自分の金貨二十五枚を開く。

【現地貨幣を取り出しました:金貨21枚】
【格納庫保管:金貨4枚】

 使っていい金は、一枚しかなかった。

 任命状と一緒に受け取った手続きの控えには、城下に請人を持たない外来商人の供託満額が、金貨二十枚と記されていた。その二十枚を内袋へ詰め、封をする。残る一枚だけが、路銀と仕入れに使える運転資金だ。

 二つの袋を格納庫へ戻す。

【現地貨幣を収納しました:金貨21枚】
【格納庫保管:事業資金・金貨25枚】

 それから扉を開け、トメ婆には事業帳だけを見せた。

〈組合供託予定 金貨二十枚〉
〈運転資金 金貨一枚〉

「二十枚も、全部置いてくるのかい」

「満額だ。保証を値切って始めるより、先に俺の手から切る。残り四枚は、作る道具と事故の回収に備えて動かさない」

 金をどこへしまったかまでは言わない。城下までの三百キロを、腹に巻いて運ぶ理由はない。

 事業台帳には、供託予定二十枚と運転資金一枚を別の行へ記した。供託は消えた金ではない。だが返還条件を満たすまで、俺の都合では使えなくなる。

 金貨五十枚は、まだ一枚も消えていない。だが、持ち主と使える時が違う。混ぜた瞬間、投資も自治も、ただの言い訳になる。

 契約からのひと月は、荷を待つだけでは終わらなかった。

 契約の席から西へ走った一騎が手配を先回りさせ、大工三人と種麦が半月ほどで届いた。越冬糧食も、その七日ほど後には蔵へ入った。

 麦蔵の屋根から空が消え、東の防備には新しい杭が並んだ。踏み荒らされた畑には冬麦が入り、残りの種は春まで蔵の中二階で眠る。

 ヤンは四度の実射訓練で、三発ずつ撃った。七・六二ミリ弾は三千六百発から三千五百八十八発。ハンヴィーの銃架から一挺を降ろし、二挺のM240と、その全弾を村へ残す。

「留守は任せる」

「……おれに、か」

「髭の農夫を副射手にした。獣人の狩人衆は夜番を組む。残る指揮は、あんただ」

 ヤンは東壁を見上げた。三重の鉄条網、その奥の土嚢、覆いを掛けた二つの銃座を順に確かめる。

「分かった。村は、減らさねえ」

 連れていくのは、ガルムとミアだ。ガルムは城下の案内と交渉、ミアは街道の斥候を受け持つ。

 灰色の耳の間には、村の女衆が縫った新しい頭巾が載っていた。防寒外套の尾を通す切れ目も、何度も走って位置を直してある。

「まち、みてみたい。……たいちょうの、みみも、いるでしょ」

 本人は、仕事のつもりだった。その勘定なら、連れていかない理由はない。

 ◇

《転生およそ40日目》

 夜明け前に村を出て、ハンヴィーで西へ走った。徒歩区間で使う手押し車、野営具、毛皮と蜜蝋の小口荷は、トメ婆から運搬中の預かり許可を取り、格納庫へ入れてある。

 城下までは、およそ三百キロ。轍の深い場所では車輪を溝へ落とさず、浅瀬は降りて川底を確かめてから渡る。平らな街道だけ速度を上げた。

 日暮れ前、燃料計が二割を割った。

『満タンまでの自動補給を予約しました。実行と精算は、次回の出庫時です』

 今は払わない。だが次に車を出す時、軽油九十リットル、四十五APが落ちる。先送りは、無料と同じ意味ではない。

 警告の後も走り、涸れ沢へ着く頃には、針が空の目盛りへ寄っていた。

 城下まで徒歩半日を残したところで、街道を外れた。樵の入りそうな森は避け、石の多い涸れ沢へ車を入れる。ミアとガルムに周囲を見てもらう間に、手押し車、野営具、小口荷、金貨二十一枚の二袋を取り出した。封を確かめ、二十枚は腹帯へ、運転資金の一枚は財布へ分ける。

 十秒後、二・五トンの車体が光の向こうへ消える。

 ガルムは車が消えた跡を見たが、何も訊かなかった。俺も説明しない。見せたのは、車と荷が消える現象だけだ。格納庫という名も、容量も、中に何があるかも教えていない。

 市中では、光の扉を一度も開かない。未申告の荷を城壁の内側で出せば、正規に仕入れた品でも密輸を疑われる。秘密を晒して、商いまで潰す理由はなかった。

 封をした二十枚は衣服の下。運転資金の一枚とは、最初から入れ物を分けている。

 その夜は小さな火を焚き、温めた麦粥を三人で食べた。M4は手元へ残し、ミアと交代で見張る。

 ◇

《転生およそ41日目》

 翌朝、街道へ戻る前にM4と弾倉、M9を格納した。城下へ持ち込む武器は、ガルムの大剣と、現地で買った小刀だけだ。

 昼過ぎ、丘の向こうへ石壁が現れた。

 塔が四本。壁の中には、数え切れない屋根と煙。外側にも畑と家が広がり、人と荷車の列が東門へ吸い込まれていく。

「ひと、いっぱい」

 ミアの尻尾が、外套の裾へ寄った。

 二万人が、毎日食い、燃やし、捨てる街だ。巨大な店には、巨大な棚と、巨大な欠品がある。

 問題は、棚を見る前に門を通れるかだった。

 ◇

 東門には、列が二つあった。

 中央の正門には、人間と荷車。番所脇の潜り戸には、耳や尻尾を持つ者が並んでいる。二つの列は低い柵で分けられていた。

「耳持ちは潜り戸だ。身元の改めと請人の名、それに入市税は倍」

 衛兵は、ミアを見て顎を振った。灰色の耳が、迷いなく伏せられる。初めて言われた者の動きではなかった。

「改めるなら、これを」

 俺は封印付きの任命状と、契約の朝に領家の書記が村へ残した戸帳の写しを出した。こちらにも封があり、三十人の名が同じ領民区分に並び、その中にミアの名もある。

「リヒト村の斥候、ミア。請人は俺が立つ。城内でこいつが負う責任は、俺の帳簿へ載せろ」

 衛兵は戸帳と任命状を見比べ、上役を呼んだ。

 上役は封蝋を確かめ、俺に請人の署名をさせた。それから列を隔てる柵の通用口を開け、三人を正門側へ戻した。

「入市税は、三人で銅貨六枚」

 崩すのは、運転資金の金貨一枚だけだ。供託用の封には触れず、番所で銀貨と銅貨へ替えて税を払った。

 毛皮と蜜蝋は見本として荷を改められた。売るなら組合の秤場へ持ち込めと、番兵が荷紐へ木札を結ぶ。ガルムの大剣にも、鞘から抜けば切れる位置へ封紐が巻かれた。

 隣の潜り戸では、獣人の父親が頭を下げていた。背には売り物らしい小物の束。八つか九つほどの娘が、父親の上着を掴んでいる。

「請人の名がなければ通せん」

「税なら、二人ぶん払う。荷も、ここで改めてくれ」

「銭の話じゃない。戻れ」

 父親はもう一度だけ頼み、それから荷を担ぎ直した。俺は列を振り返った。荷を担ぎ直す父親の背中を、ミアがじっと見ていた。娘は、泣いていなかった。

「……たいちょう」

「俺の紙で請けられるのは、村の戸帳にいる者までだ」

 ガルムが、低い声で続ける。

「請人は、逃げた時の科料も、壊した物の賠償も背負う。旦那の任命状で請けられるのは、同じ戸帳に載る同行者までじゃ。余所者の請人になれるのは、城下に戸か組合籍を持つ者だけよ」

 助けられない、ではない。ここで門番と争い、任命状の信用と、三十人の初商いを賭ける選択を、俺はしなかった。

 ミアは頷かなかった。俺も言い訳を足さず、荷車を前へ押した。

 紙で開いた門を、紙のない二人が背中で遠ざかっていった。

 野帳の隅に、一行だけ書いた。——この街の門は、いずれもう少し、広くしてやる。

 ◇

 門の内側は、音と匂いでできていた。

 石畳を鳴らす車輪、呼び込み、焼ける肉、革、下水。ミアはイヤーマフを両手で耳へ押し当てながら、それでも忙しく左右を見ている。

 最初に、東門近くの「折れた槍」亭へ入った。傭兵登録所の隣にある、ガルムの定宿だ。

 亭主はミアの耳を見たが、値段は変えなかった。食事なしの大部屋を二泊、三人で銀貨三枚。毛皮と蜜蝋の見本は施錠した荷置きへ預け、木札を受け取る。

 封印した二十枚は預けない。腹帯へ残したまま、市場へ向かった。

 今日は売らない。まず、三つの値段だけを見る。

 粗塩は、ひと掬いで銅貨五枚。海から歩いてきた道賃が、パン五つ分の値を付けている。

 薬種屋では、傷へ塗る軟膏の小瓶が銀貨五枚。ガルムによれば、効き目は神頼み半分。高いのに、当たり外れを確かめる仕組みがない。

 紙屋では、手のひら二つぶんの紙が一枚、銅貨五枚だった。だから証文だけが紙で、日々の勘定は蝋板や木札になる。

 見た後で、商いを始めるための品だけを買った。

 鉄鍋二つ、粗塩一袋、濾し布、針と糸、麻紐、薬種の見本、それに紙を二枚。ガルムが三軒を回って値を削り、合わせて銀貨十四枚と銅貨十六枚になった。

「傭兵はの、給金の話で負けた奴から死んでいくんじゃ」

「正式に商会を作ったら、仕入れ係も任せる」

「儂の酒代まで値切る気じゃろう」

「そこは契約どおりだ」

 昼は黒パンと串焼きで三人、銅貨六枚。ミアは最初の一口で耳を立て、それから食べ終わるまで一言も話さなかった。

 買うだけなら、組合籍はいらない。荷車の上には道具と材料が増えたが、こちらから売った物は一つもない。

 市場の先、川沿いに天秤の紋を付けた倉が並んでいた。その中央に、同じ紋を掲げた商人組合の会館がある。

 ここへ来た目的は、値札見物ではない。

 商人になるためだ。

 ◇

 組合の受付では、油壺が秤に載せられていた。

 見た目は同じ二つの壺。片方だけが軽い。係が底を叩くと、厚く盛った粘土が剥がれた。

「売り手の札を外せ。買い手へ銭を返して、三日間は秤場へ入れるな」

 泣きつく売り手を、係は怒鳴らなかった。壺と帳面を確認し、決められた処置を一つずつ進める。

 柵は要る。問題は、いま俺が柵の外にいることだった。

 順番が来ると、任命状の写しと、買ったばかりの紙へ書いた申請書を窓口へ置いた。

「城下で、継続して品を売りたい。登録の手続きを頼む」

 組合書記は封印を確かめたが、任命状をこちらへ返した。

「御用商人は、グレンツ家へ納める資格です。城下の民へ売る資格ではございません」

「なら、組合籍を取る」

「屋号は」

「まだない」

「城下の請人、常設の店、組合が検めた品は」

「どれも、まだない」

 書記は眉一つ動かさず、三つの空欄を指した。

「無店舗、無請人、未検査品。金貨を積めば、埋まる空欄は一つだけです」

「城下の請人に代えるなら、満額は金貨二十枚です」

 腹帯には、封印した二十枚がある。だが、金で品物の安全までは買えない。さっきの油壺を見た後では、なおさらだった。

「御用として城へ納めるだけなら、その任命状で足ります。市で商うなら、申請は受理できません」

「受理しないという決定を、誰が変えられる」

「組合長と、御用商人を任じた主家と、申請者が対席する審理です」

「明朝は、最初の講義で城へ上がる。そこへ組合長と書記を出してくれ」

 初めて、書記の手が止まった。

「グレンツ家へ特免を願えば、城へ入れる一度きりの荷として扱う道もございますが」

「今日だけ開く門に、村の荷は預けられない。来月も、その次も、同じ条件で通れる道が要る」

「審理で退けられれば、御用の名があっても、城下では一つも売れません」

「分かっている」

 特例なら早い。だが、毎回リーゼロッテの印を借りる店は、俺の店ではない。

 組合書記は高い紙を一枚使い、対席審理の申立てを書いた。組合長、グレンツ家の立会人、申請者。使いが城へ走り、日暮れ前に黒鷲の受領印を持って戻った。

 時刻は、明朝。審理は朝から開き、日暮れの鐘までに結論を出す。予定されていた講義より先に、商人としての値踏みを受ける。

 最後に、書記は紙から目を上げた。

「審理は明朝からです。日暮れの鐘までに、売る物の名と、その検め方をお示しください。事故が出た時、誰が償うのかも」

 宿へ戻る頃には、日が落ちていた。

 夕餉は三人で銅貨六枚。部屋の卓上へ、残った銭を並べる。

 供託用の金貨二十枚。封は無傷。

 自由に使えるのは、銀貨一枚と銅貨六枚。銅貨に直して二十六枚分しかない。荷置きには買った道具があるが、売る権利はない。

「あの扇の姫君に、門を開けてもらわんでよいのか」

「開けてもらえば、次も頼むことになる」

 買った紙の一枚を卓へ置く。これだけで、黒パン五つ分だ。無駄な説明を書く余白はない。

 一行目へ、売る物の候補を書く。

 二行目には、どう検めるか。

 三行目には、失敗した時に誰の金が減るか。

 石の門は、紙で通った。

 商いの門は、金貨だけでは開かない。

 俺の初商いは、まだ一つも売らないところから始まった。


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【第13話 収支(AP)】
期首 33,920
収入 ±0
支出 ±0
期末 33,920
累計 95,245/システムLv3

【現地通貨】
村共有金 金貨25枚(村に残置・動きなし)
拓真の事業資金(全額、拓真個人の金) 金貨25枚
 格納庫に保管する予備 金貨4枚
 涸れ沢まで格納庫で運び、城下へ物理携行 金貨21枚
  供託予定 金貨20枚(封印・未使用)
  運転資金 金貨1枚=銅貨400枚

運転資金からの支出 合計 銅貨374枚
 入市税 銅貨6枚
 宿二泊 銀貨3枚=銅貨60枚
 事業用の道具・材料 銀貨14枚+銅貨16枚=銅貨296枚
 昼食 銅貨6枚
 夕食 銅貨6枚

自由現金 銀貨1枚+銅貨6枚=銅貨26枚

※金貨は村からの預り金ではありません。村共有金25枚と、拓真個人が所有し損失を引き受ける事業資金25枚は、別の所有者・別の帳簿です。予備4枚は拓真名義で格納庫に保管しています。
※貨幣は金貨・銀貨・銅貨の三種類だけ。金貨1=銀貨20=銅貨400です。

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