第14話 門をもう一枚 転生特典は米軍払い下げ?〜弾丸1発1ポイント。ハンヴィー1台から始める異世界軍事立国、気づけばイージス艦まで揃ってました〜

《転生およそ42日目》

 商人組合会館の二階に、長机が一本だけ置かれていた。

 机の向こうには、審理する組合長バルツァーと記録を取る組合書記。こちら側には、申請者の俺が一人。右端には、領家の立会人としてリーゼロッテとフェルゼン卿が座った。誰が決め、誰が願い、誰が見届けるのか。席だけで役目が分かる並びだった。

 昨日の申請書に残った空欄は三つ。城下の請人、常設の店、組合が検めた商品。その三つを、別の条件で埋められるか決める席だ。

 俺は封を切り、金貨二十枚を机の中央へ、五枚ずつ四列に並べた。

 昨日まで腹に巻いていた、俺の金だ。

 バルツァーは二十枚を小さな秤へ順に載せ、重さを見てから、刻印と縁の削れを確かめた。天秤の紋を付けた上着。分厚い指の爪際には、白い粉がこびりついている。

「誰の銭じゃ」

「俺のです」

「村の銭ではない、と?」

「村の二十五枚は、魔石を買った時点で村の物になった。これは辺境伯家から受け取った契約支度金のうち、俺に残った二十五枚から出した金です」

「なぜ、自分の倉へ置いておかん」

「俺の手元にある限り、保証にはならない。俺が逃げても、死んでも、支払いを拒んでも、商品事故の被害者へ組合が先に払えるよう、ここで俺の手から切り離す」

 自分の財布へ戻せるうちは、ただの貯金だ。返還条件を満たすまで使えなくして、初めて供託になる。

 バルツァーは二十枚を数え直し、組合書記へ頷いた。

「満額二十枚。これで城下の請人という空欄は埋められる。だが、金で埋まるのは一つだけじゃ」

 右の席で、リーゼロッテが閉じた扇を机へ置いた。

「グレンツ家が保証するのは、この方を御用商人に任じた事実までですわ。品の安全も、商いの損も保証いたしません。不足を領家の金で埋めることもありません」

 助け舟ではない。品の責任を、俺の金で負うと確かめる言葉だった。

「姫様がそこまで仰るなら、なおさら聞かねばなりますまい」

 バルツァーは、昨日の申立書を開いた。

「売る物の名。検め方。事故が出た時、誰が償うか。三つ、答えよ」

 目録から完成品を取り寄せれば、布も保存食も石鹸も出せる。だが製造元も補充の仕組みも組合へ明かせず、俺が倒れれば供給はその日で止まる。武器は売らない。薬は効能と副作用を検める仕組みが先に要る。塩と穀物へ手を出せば、町の命綱そのものを揺らす。

 APは、兵器と薬、それに生産を助ける道具へ使う。最初の商品は、俺がいない日にも村で繰り返し作れ、異常があれば一釜まで遡れる物に絞る。

「一般に売るのは一つ。白鹸。汚れを落とすための、白い石鹸です」

「薬ではないのか」

「薬とは呼ばない。治ると約束もしない。手や布を洗う品として売る」

「検め方は、仕込んだ釜ごとに番号を付ける。組合が選んだ品を抜き取り、売らずに残す見本も同じ番号で保管する。ひとつでも異常が出たら、その番号は全部引き取る」

「番号は、悪い品を追う術じゃ。悪い品を見つける術ではない」

「検査役には、組合が選ぶ石鹸職人を入れてください。熟成日、硬さと液漏れ、脂の臭い、油布の汚れ落ち、灰汁が強く残っていないか。同じ手順で比べる」

「売り手が選んだ上物だけを、儂へ見せる気ではないな?」

「抜く場所も数も、組合が決めていい」

「事故の償いは、その二十枚か」

「そうです。供託から先に客へ返し、それでも足りなければ俺が払う」

 バルツァーは返事をせず、金貨を四列へ揃え直した。満額を積んでも、悪い品が良くなるわけではない。その確認だった。

「申請書には、もう一つあるな。火酒、と」

「施療院で、手と金属の道具を拭くために試してもらう。傷へ注ぐ薬としては売らない」

「そちらは儂の秤だけでは足りん。薬師がひと月使い、害がないと認めるまで施療院の外へ出すな」

「煮られる道具は煮る。これは石鹸と湯で汚れを落とした後の補助です。施療院で鍵を掛け、使った量も記録する。火のそばには置かない」

「ひと月で見るのは、効くという証明ではない。害と扱いの事故がないかじゃ」

「呑みます」

「遠方の完成品を後で扱うことまで禁じる気はない。ただし、品目ごとに検め方と、事故が出た時の償い方を出せ。今回の試験枠へ、白鹸と火酒以外を勝手に足すな」

「分かりました。完成品を売る時は、別に申請する」

「白鹸も、最初の釜が検査を通るまでは一つも売るな。売る時は組合員への卸しだけ。自分で露店を出すことは認めん」

「それも呑む」

「常設店の代わりは、卸し先となる組合員の店。城下の請人の代わりは、その二十枚じゃ。試験枠の売買は一件残らず組合帳へ通せ。帳面の外で一つでも売れば終いよ」

「期間は三月。数え始めは、最初の白鹸へ検印を押した日。四十五日以内に最初の検査品を出せなければ、その前に失効じゃ。売値の一割を検印料とする。城下で塩と穀物を販売品として扱うな」

「最初から、その二つを扱うつもりはない」

 バルツァーが、最後に一本だけ指を立てた。

「月の売上は銀貨二百枚まで。保証が足りぬからではない。初めて扱う品を、ひと月で回収できる量に限るためじゃ。事故の弁済で供託が一枚でも減れば、二十枚へ戻すまで販売停止。三月の間に検査、回収、帳面のどれか一つでも誤魔化せば、枠は閉じる」

「分かった」

「ならば、柵を壊すのではない。試しに、小さな門を一枚だけ付ける。鍵は儂が持つ」

「門番には、残ってもらわないと困る」

 バルツァーは、二十枚を組合書記の側へ押した。

 バルツァーの指が、金貨の列から離れた。

 書記が条件を書き始めたところで、窓の外から木の裂ける音がした。

 続いて、怒鳴り声と馬のいななき。フェルゼン卿が窓辺へ寄り、眉をしかめる。

「東部の補給隊だ。昼の鐘で出るはずだった」

 中庭には荷車が八台。うち一台の車軸が割れ、荷台が石畳へ傾いていた。破れた袋から、大麦がこぼれている。

「直すのに半日。出立は明朝へ延ばします」

「東の中継蔵は、あと十一日分です。行程は十日。明朝へずれれば、余裕が消えます」

「なら、今日出す意味はある」

 兵站方の主計が報告すると、リーゼロッテが俺を見た。

「商人どの。今日の講義は、配置、運搬、保管でしたわね」

「机より、いい教材が来ましたね」

 ◇

 荷札と積荷表を、石段へ並べた。

 百人が十日歩くための八台だ。五台には兵の食料、鍋、天幕。三台には、車を牽く馬の大麦が積まれている。壊れたのは、その三台のうち一台だった。

 軍の承認を取れば、壊れた一台ぶんを俺の格納庫へ呑ませることはできる。だが百人の前で光の扉を開き、次の便まで俺を待つ補給線にすることになる。契約で売ったのは、その場だけの奇跡ではない。俺がいない日にも回る手順だ。

「七台へ積み替えれば出せる」

 若い主計が言う。

「積めるか?」

 荷車の頭が、荷台と車輪を見比べて首を振った。

「積めても、最初の坂で車軸をもう一本折ります」

「なら、明日まで待つしかない」

「川船は?」

 俺が訊くと、全員の顔がこちらへ向いた。

「東へ出る船が、昼に一本あるはずです。街道と川が分かれるのは、歩いて二日目。その渡し場に、組合の倉がある」

 バルツァーが目を細めた。

「ある。じゃが、船は兵の足に合わせては待たんぞ」

「待たせない。往路の最初の二日分は船へ載せ、今夜と明日の川沿いの宿営地へ先に下ろす。帰路の最後の二日分は、二日目の組合倉にある備蓄を取り置き、今日の船荷で補充する。四日分を荷車から外せば、大麦は二台へ収まる。壊れた一台はここへ残し、七台を今日出す」

 主計たちが、積荷表へ指を走らせる。袋を十いくつか七台へ分けても、車軸の限界までは余裕があった。

「船が遅れたら、馬が飢える」

「宿営地への荷下ろしと、倉の備蓄が確かでなければ、その通りです。出す前に、船の到着予定と受取人を確認する。それが取れないなら、この案は捨てて明日まで待つ」

 書記が川湊へ走り、二つの宿営地の受取札、倉番の木札、船頭の出発札を持ち帰った。倉には三日分あり、そのうち二日分を帰路用に封じても一日分が残る。船は大麦を追加しても、隊列より先に今夜の渡し場へ着く。

 合図が出ると、兵と御者が袋を運び始めた。こぼれた大麦まで箒で集め、量を測り直す。昼の鐘が鳴り終わる頃、七台の車輪が東門へ向かって動き出した。

「一台を減らす術は分かった」

 最後まで積荷表を見ていたバルツァーが言った。

「船賃、倉賃、倉番の飯、濡れと鼠で減る分。それを入れても、毎回得か?」

「今日は、出発を一日遅らせる損と比べただけです。毎回使う仕組みにするなら、その四つも数える。次の講義までに、兵站方の帳面と組合の運賃表を突き合わせます」

「分からぬ物を、分かるとは言わんか」

「間違った確信は、欠品より高くつく」

 老人は鼻を鳴らし、先に会館へ戻った。

 城の書記が、宿札と行程日数を照合した。月一回の講義契約に基づく宿代と旅費として、銀貨五枚と銅貨十枚が支払われる。

「講義一回分の旅費と宿代ですわ。供託とは別勘定で」

「帳簿は分けます」

「結構」

 リーゼロッテは短く答え、会館へ戻った。

 ◇

 夕刻、試験販売の許可状が三通できた。

 組合、領家、申請者が一通ずつ持つ。供託の二十枚は組合金庫へ移され、預けた額を証明する割符をバルツァーと俺が半分ずつ持った。割符は金庫を開ける鍵ではない。組合が商品事故と認めた弁済は、俺の同意なしにここから支払われる。

 返還条件を満たすまでは俺の資産だが、俺には一枚も使えない。

「屋号を」

 組合書記が、空いた欄を指す。

「リヒト商会」

「村の名を、そのまま?」

「村が看板で、俺が帳場だ。看板を汚したら、俺には帰る場所がなくなる」

 リーゼロッテが、立会人の欄へ羽根ペンを置いた。親指が、柄を挟んだまま一拍だけ強張る。

「第二条から、もう一度読み上げなさい」

 書記が条文を読み直す間、彼女の右手は机の下へ消えた。読み上げが終わると、何事もなかったように署名し、印を置く。

 三度目だ。偶然の欄には、もう戻さない。

 俺も署名する。続いてバルツァーが、天秤の印を押した。

「商いの門は開いた、などと思うなよ。まだ門札を下げただけじゃ」

「品を持って通って、初めて開く」

「分かっておるなら、早う作れ。白鹸とやらは、まだ一つもないのであろう」

「四十五日の期限までに、番号を付けて持ってくる」

 期限が、許可状の形をして手元へ来た。

 宿へ戻ると、ミアが銅貨一枚を返した。昼飯に二枚、飴に一枚。飴はヤンに見せてから半分にするらしい。ガルムは、値切ったのは自分だと主張した。

 ◇

《転生およそ43日目》

 翌朝、帰り支度の前に、毛皮と蜜蝋の小口荷を組合の秤へ載せた。

 これは白鹸の試験枠ではない。狩人や旅人にも認められた、素材の通常取引だ。

 売値は銀貨二十枚。秤料と口銭の一割を引いて、手元へ十八枚が残る。

 出立前、トメ婆と俺は、村の現物分を銀貨九枚と木札へ刻んでいた。封を割って確かめ、まず九枚を村へ戻す。残る九枚が利益で、契約どおり商会に六枚、村に三枚。

 村の袋へ、合わせて銀貨十二枚。俺の帳場へ、銀貨六枚。

 同じ財布へ入れれば、銀貨十八枚でしかない。分けて書けば、誰が材料を出し、誰が売り、誰がどれだけ儲けたかが残る。

「最初の荷にしては、目方は正直じゃ」

 秤の向こうで、バルツァーが検印を押した。

「褒め言葉として受け取ります」

「白鹸にも、同じことが言えればよいがの」

 商会の帳場から、塩と蝋燭に銀貨二枚、帰路の糧食に銀貨一枚を払った。村の十二枚には触れない。

 自由に使える現金は、銀貨八枚と銅貨十五枚。格納庫には、俺の金貨四枚が残っている。組合金庫には、俺が使えなくした金貨二十枚がある。

 場所も、使える条件も違う。

 だが、どれも俺の商売が失敗すれば減る、俺の金だった。

 東門を出る前に、許可状をもう一度確かめる。

 リヒト商会の名は載った。売るための小さな門もできた。

 けれど、その門を通すリヒト商会の白鹸は、まだ一つもなかった。


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【第14話 収支(AP)】
期首 33,920
収入 ±0
支出 ±0
期末 33,920
累計 95,245/システムLv3

【現地通貨】
◆リヒト村
共有金 金貨25枚(村に残置・動きなし)
初荷の受取 銀貨12枚(材料評価9+純益配分3)

◆拓真個人の事業資金
格納庫 金貨4枚(拓真所有・現地貨幣保管枠)
組合供託 金貨20枚(拓真所有だが使用・回収を制限)
自由現金 銀貨8枚+銅貨15枚

※供託は保管ではありません。拓真が逃亡・死亡・支払い拒否をしても、商品事故の被害者へ組合が先払いできるよう、本人の手から金を切り離す制度です。
※格納庫は現地の金貨・商品も収納可能です。ただしAP換金・複製・自動補充はされず、容量を使い、敵性反応中は開きません。

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