《転生3日目》
昨夜、俺はレベル2のカタログを開き、値札を一巡して閉じた。
弔いと救援を終えたばかりの頭で、三千APを超える決裁はしない。大きな買い物ほど、寝てから決める。
夜明け前に目を覚まし、まずM9の弾を数えた。薬室に一発、装着弾倉に十四発。予備三十、箱に八十二。昨日使った分は、昨日のうちに埋めてある。
指はもう震えない。転生から三日目にして、この確認は歯磨きと同じ場所へ収まりつつあった。
蔵の方から、麦を|挽《ひ》く石|臼《うす》の音がする。焼けた村の朝に生活の音が戻っていた。悪くない目覚めだった。
朝の光の中で、もう一度カタログを開く。
【Lv2解放品目(抜粋)】
【分隊機関銃M249……3,000AP】
【汎用機関銃M240……4,000AP】
【重機関銃M2(12.7mm)……6,000AP】
【中型戦術トラック……6,000AP】
【発電機セット(村落用):本体・ケーブル・投光器2基・20L携行缶・初期燃料付き……1,000AP】
【抗生物質(1クール)……100AP】
【指向性対人地雷クレイモア……100AP】
残高、3,620AP。
最初に目へ入ったのは、M240だった。三百八十、足りない。
ハンヴィーのルーフにある空の銃架へ、そのまま据えられる一|挺《ちょう》。あれがあれば、一昨日の四十一体を車で|轢《ひ》き回る必要はなかった。
想像の中で、俺は銃座に立っていた。頬付けして、|槓桿《こうかん》を引く。火線が夜を裂き、蔵の扉へ群がる影を端から|薙《な》ぎ倒していく。
想像だけなら、弾代は掛からない。
ならばと隣へ視線を滑らせる。M249なら、買える。
「アルマ。M249に5.56mm弾を三百発つけた場合の、合計と購入後残高を出せ」
『合計3,600APです。購入後の残高は20APとなります』
「機関銃ってのは、弾を食う生き物なんだよな」
『はい。機関銃の本体は、銃ではなく弾薬です』
いいことを言う。本体三千は頭金にすぎない。景気よく撃てば、一分で数百APが煙になる。
最初の三百発を使い切った瞬間、次の弾も、修理代も、怪我人の薬も買えなくなる。
そして今の俺は、敵の正体すら知らない。
氾濫とは何なのか。いつ来るのか。何体来るのか。ゴブリンだけなのか。
「今日は、まだ買わない」
『発電機もですか』
昨夜、最後に目を止めた品だった。
「ああ。敵を知ってから買う。買い物の順番を、間違えるな」
『……計画的です。記録します』
「褒めてるのか、それは」
『事実の記録です』
このAI、俺の扱いが少しずつ雑になっていないか。まあいい。まずは外に、何が、どれだけいるのかを数える。
◇
目的は討伐ではない。昨日の五体は残党だったのか、新手が東から流れ続けているのか。今夜、どこまでを安全圏として扱えるのか。村の東側を扇状に見て回ることにした。
連れていくのは、地形と足跡を知るヤンと、村で一番耳と鼻の利くミア。ミアを斥候任務で壁の外へ出すのは、これが初めてだった。
村の年寄りと獣人の大人たちへ一人ずつ確認した。遠くの匂いを拾う力は、やはりミアが頭ひとつ抜けているという。本人は、助手席の扉の前から動かなかった。
「役目は探すことだ。戦うことじゃない」
「わかってる」
「俺より前へ出ない。戦いになったら、俺が選んだ遮蔽へヤンと入る。合図まで出ない」
「わかってる」
「勝手に車を降りない」
「……わかってる」
最後だけ、少し返事が遅かった。
「怖くないのか」
ミアは、灰色の耳を一度伏せた。
「こわい。だから、さきに、みつける」
それから、蔵の方を見た。
「ミアがみつけたら、みんな、しなない」
「……そうだな」
ヤンが弓を膝に置いて後部座席へ乗り込んだ。エンジンを掛けると、ミアの耳がぺたりと伏せられ、尻尾がひとまわり膨らんだ。
「このこ、おこってる?」
「起きただけだ。飯の代わりに油を食う」
「かまない?」
「たぶん」
走り出すと、ミアは座席へ身体を押しつけられた。だが、開けた窓から風が入ってくると、すぐに耳が立ち直った。代わりに尻尾が正直になって、ぶんぶん振れている。
「はやい……。うまより、ずっと、はやい。つかれないの?」
「油があるうちはな。酔ったら言え」
「よわない。ミアは、へいき」
言った三十秒後には、窓の縁に顎を載せて風を食っていた。
「顔から先は出すな」
不満そうに、耳だけが倒れた。
犬か。
……いや、狼か。
村の東四百メートルにある低い|稜線《りょうせん》を越え、|涸《か》れ谷へ向かう古い道の手前を回る。
システムの警告は、まだ出ていなかった。
先に、ミアの鼻が動いた。
「におい。ゴブリン。……きのうのと、ちがう」
「新しい匂いか」
「うん。あと、オオカミのけもの」
ヤンが車を降り、湿った土の足跡へ指を当てた。
「東から来てる。昨夜より後だ」
一か所ではなかった。
畑外れの草地に一群。
北東の畑境にある崩れた石垣沿いに、もう一群。
さらに東の岩場に、三つ目。
どの足跡も、村の方角を向いていた。
「アルマ。一昨日の夜に逃げた五体は」
『昨日の朝、五体すべての討伐を確認しています。未討伐の生存個体はいません』
ミアの鼻は「昨日と違う」と言い、ヤンは足跡を「昨夜より後」と読んだ。システムの帳尻も、それを裏書きしている。
新手が東から続けて流れ出してきている。放置すれば、今夜か明日の夜には壁へ来る。
「近い二群から片付ける。ミア、今からは言ったとおりに動け」
「たいちょうは?」
「俺も降りない」
距離を詰め、見通しが三百メートルほどに開けたところで、視界の隅が赤く灯った。
【敵性反応:24——脅威度E、ゴブリン。現在捕捉中、前方二群】
二群の間には、東へ伸びる古い荷車道があった。北側は肩まである連続した石垣、南側は深い涸れ水路。
間は荷車一台が通れる幅しかなく、東端は崩れた石で狭まっている。
西口から百メートルほど離れた畑に、古い石橋の橋台が残っていた。厚い石積みで、入り口は敵と反対の西向きだ。
俺はハンヴィーを敵側へ向けて止め、車体の陰から二人を橋台の裏へ入れた。
「ヤン、ここでミアを守れ。二人とも、俺が呼ぶまで石の前に出るな」
「分かった」
「ミア、敵はどこに集まっている」
ミアは橋台の陰から鼻を動かし、東の方角を指した。
「石のかべと、水のない溝のあいだ。ふたつ、ひとつになる」
ミアの報告どおり、俺は西へ散る側を車体で塞ぎ、二群を古い荷車道へ追い込んだ。石垣と涸れ水路に挟まれ、緑の影が一列に伸びる。
アクセルを踏んだ。
衝撃が何度も床から突き上げる。石垣に寄った影も、水路の縁でたたらを踏んだ影も、次の瞬間にはタイヤの下へ消えた。東端の崩れ石へ行き当たる前にブレーキを踏む。
動かなくなった影は、十七。その先で、生き残りが崩れ石と仲間の体に塞がれ、固まっている。
車を荷車道の西口までまっすぐ下げると、遮蔽の中からミアの声が飛んだ。
「まだ、ななつ! おくに、かたまってる!」
それを裏書きするように、赤い表示も七体を捕捉し続けている。ヤンとミアが石積みの裏にいるのを確かめ、俺はもう一度アクセルを踏んだ。
二度目の衝撃のあと、赤い数字が零へ落ちた。血がタイヤへ絡み、操舵がわずかに重くなっている。アクセルを戻し、動かなくなった影を数え直した。
【|轢突《れきとつ》による撃破:ゴブリン24】
荷車道と両側の死角を歩いて確かめ、それからやっと二人を呼んだ。ミアにも、残る匂いがないことを確認させる。
「もういい。乗れ」
ミアは荷車道の方を見ないまま助手席へ戻り、安全帯を両手で締めた。
残る一群は、車体の幅では入れない岩場に潜んでいた。大石と低木が重なり、曲がった獣道が東へ延びている。
ミアが鼻先を上げた。赤い警告が表示されるより早い。
「みどり、やっつ。オオカミ、よっつ。……みぎにも、におい」
岩に遮られ、システムがまだ捕捉していない距離から、数と種類まで拾っている。連れてきた意味は、もう十分にあった。
岩伝いに距離を詰める。岩の切れ間へ出て、二百メートルを切ったあたりで、警告表示が赤へ変わった。
【敵性反応:12——脅威度E、ゴブリン8/脅威度E+、狼型4。現在捕捉中、岩場】
ミアの数えたとおりだった。狼型には一段上の値がついている。
そのまま岩場の入口まで進め、ハンヴィーを斜めに止めた。敵まで四十メートル余り。エンジンブロックを敵のいる側へ向ける。
「ここからは降りる。ミアは助手席だ。ヤン、ミアを頼む。抜けた奴だけ止めてくれ」
「分かった。狼は回るぞ。小鬼を前へ出して、横から喉を取りに来る」
昨夜のうちに女衆へ頼んで作ってもらった羊毛の耳栓を三組出し、ミアとヤンへ渡して、俺も耳へ詰めた。昨日のガーゼの即席より、よほどいい。
ミアは耳栓を嫌そうにつまんだ。
「これ、きこえにくい」
「今日は鼻を借りる。耳は明日も使うから守れ」
渋々、灰色の耳へ羊毛を押し込んだ。
ヤンは助手席の外、エンジンブロックの陰で弓をつがえた。ミアは安全帯を締め直し、座席の下へ身体を伏せる。教えたとおりだった。
岩へ身体を預け、M9を構える。
緑の影が動いた。
最初の二発で、一体。
銃声が岩場へ跳ね返る。ゴブリンどもが頭を抱え、狭い足場で互いにぶつかった。
止まったものから撃つ。
二発。照準を戻す。また二発。
六つの影が倒れたところで、十二発。
残る敵は六体。M9の中は、三発。
足りない。
弾倉を抜く。中に二発。腰のポーチへ押し込み、薬室に一発を残したまま、左手を予備弾倉へ伸ばした。
「たいちょう、みぎ!」
アルマの赤い警告より、ミアの声が早かった。
右手の岩陰を、狼型が低く回り込んでくる。跳ぶ前に、見えた——ミアの声の早さが、その差を作った。
弾倉は抜けている。あるのは、薬室の一発だけ。
身体を捻り、岩を出た鼻先へ撃った。
胸に当たり、狼型がつんのめる。岩へ肩から突っ込み、脚を掻いて立ち直ろうとしている。
その転倒が、弾倉一本ぶんの時間だった。
新しい弾倉を叩き込み、スライドを引く。
立ち直った狼型が、跳んだ。
頭へ、二発目。
鼻先が、靴の半歩前へ落ちた。
「そのまま伏せてろ!」
残る五体。
近いものから、二発ずつ。
岩の上から降りてきた狼型が三体。それから、ゴブリンが一体。
最後のゴブリンが横へ抜け、車の方へ走った。ヤンの矢が太腿へ立ち、つんのめって転がったところを、俺の二発が止めた。
引き金から、指を外した。
【撃破:ゴブリン8/狼型4】
【使用弾数:24】
【交戦終了。現在捕捉中の敵性反応なし】
銃声が止み、硝煙の向こうでヤンが弓を下ろした。
「……右の一匹、俺には見えなかった」
ヤンの目が、M9と腰の弾倉を往復した。
「あれだけ雷を撃って、それでもまだ撃てるのか」
「弾と弾倉があるうちはな」
「……弓とは、ずいぶん勘定が違う」
ミアはまだ座席の下に伏せていた。耳を塞ぎ、前へ出ず、顔だけをこちらへ向けている。
「もういい。立て」
羊毛を外した灰色の耳が、恐る恐る起き上がった。
「ミア、やくめ、できた?」
「できた。俺の命を一つ拾った」
尻尾が跳ねた。
「それと、約束を全部守った。そっちの方が大事だ」
帰りの助手席で、ミアは胸を張ろうとして、揺れる車体に頭をぶつけた。痛そうな顔をしたあと、それでも少しだけ得意げに座り直した。
【本日討伐:ゴブリン32/狼型4】
【討伐報酬:+400AP】
【残高:4,020AP】
三か所で、三十六体。多い。しかも、すべて新しく東から流れてきた個体だ。
村長の遺言が数字を持ち始めていた。氾濫は、もう始まっているのかもしれない。
『車体下面と右前輪に軽微な損耗を確認。走行に支障はありません。暫定修理見積もり、150APです』
「修理は保留。見積もりだけ記録しておけ。……轢くのも、ただじゃないんだったな」
◇
村へ戻り、使った二十四発を箱から弾倉へ戻した。薬室に一発。装着弾倉に十四発。予備三十発。箱に五十八発。総数、百三発。
アルマの見積もりでは、無傷の魔石は三十三個。だが、まだ死体の中だ。
地図へ三か所の印をつけ、ヤンに男衆の解体組を頼んだ。日が落ちるまでに石だけ回収し、死体の位置も記録する。俺はその間に、別の仕事を片付ける。
もう一度カタログを開いた。残高、4,020AP。今なら、M240の本体へ手が届く。
【汎用機関銃M240……4,000AP】
買えば残りは20。7.62mm弾は一発3AP。六発買って、残り2AP。
六発入りの機関銃。世界で一番重い拳銃だ。
M249なら、本体と三百発を合わせて3,600。残り420。こちらなら、今日から実戦で使える。今朝とは違う。機関銃は、もう夢ではない。
視線を横へ滑らせる。
【発電機セット(村落用)……1,000AP】
三つの群れは別々の場所にいた。一挺の銃は、俺が向いた一方向しか守れない。夜の闇で敵を見つけられなければ、引き金へ指を掛ける前に終わる。
灯りがあれば、三十人の目が夜番になる。感傷だけじゃない。灯りは防衛設備だ。ついでに、人の心も守る。
「アルマ。発電機セットを一つ」
『確認します。M249ではなく、発電機でよろしいですか』
「兵器を見送るんじゃない。先に、夜を買う」
【発電機セット:-1,000AP】
【残高:3,020AP】
空の銃架には、もう少し待ってもらうことにした。太陽は西へ傾き始めている。日没まで、四時間。
間に合わせる。
◇
設置場所は、村の南西に決めた。蔵からも、敵の来る東側からも、最も遠い外壁の内隅だ。
蔵の裏は近すぎる。全員の寝床の壁一枚向こうで、ディーゼルを一晩唸らせるわけにはいかない。
何より、この村の警報装置は獣人の耳だ。その耳をこちらの機械で塞いでは、本末転倒になる。
村に残った男衆と一緒に平らな石を敷き、発電機を載せた。
排気は人のいない開放側の風下へ。軽油の携行缶は石敷きから数歩離し、周囲から|藁《わら》と木屑を残らず退ける。
脇には砂の|桶《おけ》も置いた。灯りを作る機械で、二度目の火事を出したら笑えない。
投光器は地面へ置けない。大人の胸ほどある石壁に光を食われるから、焼け跡から焦げの浅い|梁《はり》材を二本選び、広場へ柱として立てる。
一本目は、起こす途中で黒く焼けた芯が折れた。
「次だ! 表面だけ焦げたやつを探せ!」
残った農夫たちが焼け跡へ走り、女たちは石を運んで柱の根元を固める。電気が何かは、誰も知らない。
それでも、俺が日暮れまでに何かを間に合わせようとしていることだけは伝わったらしい。手が足りないと思う前に、手が伸びてきた。
二本目が立った時、太陽は山の端へ触れていた。投光器を壁より頭二つ高い位置へ据え、ケーブルを発電機まで引く。
燃料と接続を二度確認し、柱を揺すって固定を確かめる。あとは、暗くなるのを待つだけだった。
そこへ、ヤンと解体組が荷車を引いて戻ってきた。籠の中には、洗った魔石が三十三個。
轢いた二十四体のうち三体ぶんは砕け、値がつかなかった。砕片だけを別袋へ分けてある。
無傷の三十三個は、トメ婆へ渡した。昨日、真っ先にMREの毒見をして、|夕餉《ゆうげ》の塩まで仕切っていた、あの婆さんだ。
「昨日の五個とは、話が別じゃなかったのかい」
「別だ。これは今日の村外警戒の取り分だ。道を読んだのはヤンで、先に敵を見つけたのはミアだ。俺の取り分は、別に受け取ってる」
「あんた、やっぱり商売が下手だねえ」
「東口の補強と種麦に変えてくれ。今だけは、村が潰れる方が高くつく」
これで、村の袋には三十八個。
◇
日が落ちた。動ける村人は蔵前の広場へ集まり、乳飲み子と老人は蔵の戸口から覗いていた。西門と東口の夜番だけは、持ち場を離れていない。
何が起きるのかは、誰も知らない。ただ、俺が何かをするというだけで、夕闇の中に人の輪ができている。
発電機へ燃料を回して始動すると、低い唸りが南西の隅から響き始めた。ミアが俺の袖を掴み、まばたきもせずに投光器を見上げている。
「いいか。驚くなよ」
スイッチへ手を掛けた。
「……点けるぞ」
押し込む。
白い光が、夜を割った。
広場が、真昼になった。
一拍遅れて、村人たちの間から悲鳴とも歓声ともつかない声が上がった。腰を抜かす者。|跪《ひざまず》いて祈り始める者。
トメ婆は杖を取り落とし、農夫たちは口を開けたまま固まっている。
「ひが……陽が、箱から出てきた……」
誰かの呟きが、妙に正確だった。前照灯の光なら、全員があの夜に見ている。だが、あれは獣の目の高さから伸び、狙った先だけを白く抜いて、すぐに消えた。
これは頭の上から降ってくる。広場全体を覆い、動かず、揺れず、|薪《たきぎ》の一本もくべないまま光り続けている。
狙うための光と、人の居場所を守る光。同じ電気でも、勘定科目がまるで違う。
トメ婆は光へ何かの祈りを捧げ、思い出したように俺を睨んだ。
「あんた、やっぱり精霊様じゃないか」
「補給屋だ」
「精霊様は、みんなそう言うのかい」
「知らん」
子供たちが最初に動き、光の輪へ恐る恐る手を差し入れた。熱くないと分かると、今度は光を掴もうと飛び跳ね始める。獣人の子も、人間の子も、同じ顔で笑っていた。
ミアは光の真下に立ち、投光器を見上げてから、俺を振り返った。
「たいちょう。これ、まいばん?」
「燃料代次第だが……まあ、毎晩だ」
尻尾が、ぶん、と一度だけ大きく振れた。
「よる、あかるいと。においより、はやく、みえる」
見張り役の言葉だった。この子は、灯りの軍事的な値打ちを、俺と同じ側から理解している。
いい兵隊に——。いや、やめておこう、その考えは。今はまだ。
跪いていたトメ婆が、やがて立ち上がり、俺の前へ来た。
「あんたの名前を、まだ聞いてなかったね」
「……タクマ。ソーマ・タクマだ」
「ソーマの旦那。うちの村は、あんたに返しきれない借りができちまったよ」
「利子は取らない主義だ。芋を焼いてくれるなら、それでいい」
トメ婆は歯のない口で笑い、本当に芋を焼き始めた。
昨日まで死んだ目で蔵へ座り込んでいた者たちが、光の下へ集まってくる。農夫が板を並べて席を作り、子供たちが焼き芋の周りに列を作った。
宴と呼ぶにはあまりに質素だが、それでも間違いなく宴だった。夜番も、持ち場から時折こちらを振り返っていた。
輪の外れで、ヤンが光へ手をかざしている。
「旦那。これなら、夜でも矢羽根が直せる」
「燃料がある間だけだ」
「油みたいなものか」
「そんなものだ」
ヤンは投光器を見上げた。
「なら、油のぶんだけ夜が長くなるってことだ」
妙な数え方をする男だった。だが、当たっている。灯りを買うというのは、時間を買うことだ。
M249を買っていれば、この光はなかった。一挺の銃を持った俺だけが暗闇を睨んでいたはずだ。今は、三十人の目が村の夜を見ている。
戦車もイージス艦も載っているカタログで、たった1,000APの発電機が、今のところ一番いい買い物だった。
安いものが、一番高い仕事をする。空の銃架は、もう少しだけ待たせておく。
◇
灯りを点けてから、三時間ほどが過ぎた。宴はまだ、ゆるやかに続いている。
ただ、一つだけ灯りには裏がある。見えるということは、見られるということだ。
この光は、西の峠からも東の野からも見える。人も、そうでないものも、光は等しく引き寄せる。
だから投光器の一基は、常に壁を越えて東へ向けてある。宴を照らしているのは、もう一基だけだ。俺は光の輪の外に立ち、闇の側の音を聞いていた。
ミアの耳が、跳ね上がった。
「たいちょう。……ひとの、におい。おおきいの、ひとり」
ほぼ同時に、西門の夜番が鉄板を一度鳴らした。広場の空気が凍る。東向きの一基は動かさず、広場を照らしていた方だけを回して西門へ向けた。
白い光の先——閉ざした西門の外に、男が立っていた。
大きい。
熊のような|巨躯《きょく》。白髪交じりの|蓬髪《ほうはつ》。頬には古い刀傷。
着古した革鎧の上から大剣を背負い、腰には酒瓶をぶら下げている。
男は|眩《まぶ》しさに目を細めたが、逃げも隠れもせず、両手を軽く上げてみせた。敵意はない、の仕草。だが、重心がまるでぶれていない。
酒瓶を下げた酔っ払いのくせに、足は正確に肩幅。数をこなした人間の、立ち方だ。
男は、発電機、投光器、焼けた家々、腹の膨れた子供たち、俺の腰のM9を順に見た。数秒で、全部を読み終えた顔だった。それから、地の底から響くような声で言った。
「峠を下りにかかった辺りで見えたんでな、この光。|狼煙《のろし》かと思って夜道を飛ばして来てみりゃあ……なんだこりゃあ」
男は一歩、光の中へ踏み込んだ。
「この灯り……いったい、どうやった」

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【第5話 収支(AP)】
期首 3,620
収入 +400
ゴブリン討伐 32体 +320
狼型 討伐 4体 +80
支出 −1,000
発電機セット(投光器2基つき) −1,000
期末 3,020
累計 5,145/システムLv2
【手持ち】
9mm弾 103発/手榴弾 4個/MRE 14食/発電機・投光器2基
※討伐後ならM240本体には届いた。ただし購入後は20AP。そこから買える弾は六発だけで、残り2APとなる。拓真は一挺の機関銃より、三十人の目を夜番に変える灯りを選んだ。
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