第24話 三十人を積めない 転生特典は米軍払い下げ?〜弾丸1発1ポイント。ハンヴィー1台から始める異世界軍事立国、気づけばイージス艦まで揃ってました〜

《転生およそ99日目・日暮れ前》

「三十人を、鉄の車へ逃がす約束はできません」

 東門外の荷改め台で、採石請負人の筆が止まった。

 男の背後には、明朝使う空荷車が十二台並んでいる。男自身を含む石工十二人、御者十二人、護衛六人。合わせて三十人だ。

「負傷者を運んだ鉄の車だと、|道路方《どうろかた》の帳面にある。十人くらいは詰められんのか」

「無傷でも十人までです。負傷者を固定すれば減ります。それに、俺はあれを運転する。ヤンは銃座、ガルムは弾と隊列、ミアは|斥候《せっこう》です」

 四人を降ろして十人を拾えば、鉄の車は走らない。十人だけを運べば、残る二十人と十二台を危険区間へ置くことになる。

「では、何を請ける」

「十二台を動かします。三十人の退路は、最初から持っている」

 採石請負人が、荷車を見た。

 村へ戻った第九十八日目の午後は、身体を休め、第三のM240を取り付ける準備に使った。五発だけ村東の土手へ撃ち、ヤンと作動を確かめる。村の二|挺《ちょう》と三千五百八十八発には触れていない。

 護衛用の医療品は、村の救護籠から借りなかった。

【衛生兵|背嚢《はいのう》(MARCH・十傷病者目安):-200AP】

【燃料九十リットル:-45AP】

【現在残高:25,100AP】

 村を発つ前、トメ婆は代替見張り三銀の交替札へ、ヤンは危険日当を含む四銀の割り札へ印を置いた。採石請負人が本契約へ同額を置いた時だけ効く紙だ。

 第九十九日目の夜明け前、予約していた燃料を満タンへ入れた。商会のM240一挺、残るリンク弾九百九十五発、M4一式と全百七十五発、商会用の|担架《たんか》一床と荷締め具一組、部分使用のIFAKを載せ、四人で村を出る。

 昼はMREを一人一食。運転できるのは俺だけなので、短い休憩を挟みながら約三百キロを走り、日暮れ前に東門へ着いた。

 採石請負人は、荷車札を二枚ずつ寄せた。

「二台を一組。御者と石工は一人ずつ。護衛は一組に一人だ」

「危険時の隊列指揮はガルム。御者は銃声を聞いても前の車輪だけを見る。止めるのは、ガルムが道を塞いだ時だけです」

「石を捨てろと言われたら」

「捨てる」

 答えたのは請負人だった。

「石は切り直せる。御者は切り直せん」

 組合書記が、その言葉を契約へ入れた。

 護衛料は銀貨十二枚。履行後に、商会へ五枚、ヤンへ四枚、村の代替見張りへ三枚。食事、水、馬草、採石組の診療費と荷損は依頼主側。十二台と三十人を東門外へ戻し、道路方の受取札が出た翌日の暮れまでに支払う。荷車組合が支払の|請人《うけにん》印を置いた。

 商会の火器で倒した分はリヒト商会、採石組の槍で倒した分は採石組へ帰属する。ただし、死骸も魔石も点呼より先に拾わない。

「もう一つ」

 俺は、紙の端へ指を置いた。

「負傷者が出ても、鉄の車へ全員を移せとは書かないでください」

「そこまで書かねば、三十人は車へ走るか」

「雷みたいな音がすれば、走りたくなります」

 採石請負人は少し考え、印を置いた。

 M240、弾薬、M4、救護具を東門外の施錠荷置きへ下ろす。HMMWVの燃料計は、また二割を下回っていた。車内を空にして格納し、四人は依頼主の天幕で夜を休んだ。

 ◇

《転生およそ100日目・二の鐘前》

【燃料九十リットル:-45AP】

【現在残高:25,055AP】

 満タンのHMMWVを東門外へ出し、第三M240を銃架へ据える。薬室は空。保持ピン、旋回、上下角、走行固定をヤンと指差しで確かめた。M4と全弾も車内へ固定する。

 村で五発を使った箱には、百九十五発が残る。それを銃架へ固定し、未開封の二百発箱四つを荷床へ縛った。予備銃身と工具は別の帯で留める。

 俺は通信ヘルメット。ヤン、ガルム、ミアはイヤーマフを首へ掛けた。採石組には、請負人が薄い羊毛の耳栓を配っている。

 荷車の前板と後ろ板へ、一から十二まで同じ番号札が結ばれた。二台ごとに護衛が一人つき、六つの組になる。

「雷が鳴ったら、前の後輪を見ろ」

 ガルムが御者たちへ言った。

「敵を見ようと振り向くな。長笛のあと、|儂《わし》が番号札を叩いた車だけ荷を捨てる。止まる時は、儂が道へ立つ」

「聞こえなかったら」

「前の後輪を見ろ。最初に言うた」

 御者たちが笑わずに|頷《うなず》いた。

 二の鐘が鳴る。

 石切り場の尾根に、白旗が上がった。補強された見張り小屋の前には旗番二人と、武装した騎兵二人がいる。

 白旗は、道のすべてが安全だという印ではない。旗番が、決めた刻に旗を上げられる状態だというだけだ。

 空荷車十二台が、第七杭から採石道へ入る。HMMWVは十二台目の後ろについた。

 一|轅《ながえ》ぶんの間隔。上りでは二つ。御者は前の車輪を見て、石工は自分の車輪と路肩を見る。六人の護衛は、二台の外側から林を見た。

 ミアのイヤーマフは、まだ首にある。

「みぎ、ひと。はたの、ひと」

 岩陰から出た旗番へ、先頭の護衛が手を上げた。

「ひだり、うま、ふたつ。みかた」

 補強小屋の騎兵だ。

 見えない音を、味方から一つずつ外していく。最後まで残ったものが、敵とは限らない。それでも、数えずに進むよりはいい。

 採石場には、切り出し済みの石材が積まれていた。石工たちは十二台を順に寄せ、車輪止めを噛ませ、同じ高さまで石を載せる。

 空だった荷車の腹が沈む。縄を締めるたび、帰りの速度が一つ落ちた。

 五の鐘にも、白旗は上がった。

 採石請負人が先頭へ乗り、十二台が城下へ向けて動き出す。HMMWVは、また|殿《しんがり》についた。

 ◇

 最初に気づいたのは、ミアだった。

「たいちょう。まえ、みっつ。ないてる」

 前方の林から、狼の遠吠えが三つ重なった。馬の耳が動き、御者の肩が固くなる。

「うしろ、もっと。しずか」

 ミアの灰色の耳が、後ろへ伏せた。

「うま、みてる」

 前の三体は、姿を見せて声を上げている。後ろの群れは、鳴かずに最後尾の馬へ寄っていた。

「耳を守れ」

 ヤン、ガルム、ミアがイヤーマフを着ける。俺は通信ヘルメットの遮音を確かめた。

 ガルムが窓から腕を出し、前へ大きく回す。

 進め。

 十二台目の御者は振り向かなかった。前車の後輪だけを見て、|手綱《たづな》を短く持つ。

 灰色の影が、路肩の藪から四つ出た。続いて、その奥でも枝が揺れる。

 ヤンは撃たない。

 荷車と馬が、銃口の先にいる。数が見えても、射線はまだない。

 六番組の護衛が槍を横へ出し、馬の尻へ回ろうとした一体を弾いた。五番組の護衛も隣へ寄り、二台の間を塞ぐ。

 一挺の機関銃で守れるのは、三十人ではない。

 今、射界にいる数十メートルだけだ。残りは、二台一組の決まりで守る。

 前の荷車との間が開く。俺はブレーキを踏み、HMMWVだけを止めた。

 十二台目は前へ行かせる。

 ガルムが右手を伏せ、左の拳を開いた。右は撃つな。左の土砂斜面へ来たものだけ。

 狼型が三体、荷車を追って白い砕石の前へ出る。

 ヤンの短射が、屋根から車体へ圧を落とした。

 硬い岩壁ではない。弾の先には、崩した土砂の山がある。灰色の身体が二つ転がり、一つは林へ戻った。

 十二台目の馬が尻を落とし、荷車が半輪ぶん路肩へ振れた。御者は振り向かず、前車の後輪へ轅を戻す。前の組も速度を落として間を詰めた。

 ヤンが銃を走行位置へ固定する。俺は前へ出し、十二台目との間を詰めた。

 銃声で、前の三体が林へ消える。だが、後ろの群れは散らなかった。

 ガルムが林を指し、首を横に振った。音だけでは散っていない。

 もう一度止まり、荷車を先へ出す。

 短射。

 追いつく。

 荷車の列は遅くても、止まらない。HMMWVだけが止まり、撃ち、また最後尾へ戻った。

 狼型の二体が、射界の内側へ潜り込んだ。

 六番組の護衛が一体を槍で受ける。穂先が肩へ入っても、獣の勢いは止まらない。男は|轍《わだち》へ倒され、頭をこぼれた砕石の角へ打ちつけた。

 もう一体へ、五番組の護衛が横から槍を入れた。二人目の穂先も重なり、狼型は馬の脚へ届く前に崩れる。

 倒れた男の肩へ、別の一体が噛みついた。

 五番組の護衛が槍を引き抜き、その脇へもう一度突き込む。獣の顎が開き、護衛の肩から外れた。

 別の狼型が十二台目の牽引馬の後脚を浅く裂いた。跳ねた轅で御者の手が擦れ、積荷へ上がった石工のふくらはぎにも爪が走る。

 ガルムが十二番札を拳で二度叩き、長笛を吹く。

 十二台目の石工が、積荷の留め縄を端から切った。

 後ろ半分の石材がまとまって路肩へ落ちる。残った石も二人の石工が押し出し、人ひとりを寝かせる床が空いた。荷台が軽くなり、右へ傾いていた車輪も少し戻る。

 御者は手綱を離さない。十一台目と十二台目の石工が、一人は頭と肩を、一人は腰を支え、身体を捻らずに持ち上げる。十二台目だけが歩くより遅くなったが、止まりはしない。

 俺はHMMWVを斜めに止めた。車体で狼を押すのではない。人と馬が抜けた土砂斜面を、ヤンの射界へ置く。

 短射が重なる。

 ガルムは次の弾薬箱の留め具を外したが、今の帯はまだ続いている。撃つ方向を指し、ヤンの左肩を一度叩いた。

 左だけ。

 俺は運転席を離れない。前には、石を捨てた十二台目がある。後ろには、銃声で止まった狼型がいる。

 見るべきなのは、倒れた数ではない。

 まだ回っている、十二台目の後輪だ。

「ガルム、救護具を十二台目へ!」

 ガルムが荷床から衛生兵背嚢と畳んだ担架を取り、石工へ渡す。二人は空いた荷床へ担架を広げ、護衛を乗せ、付属帯と荷締め帯を掛けた。

 男はいる。呼吸もある。だが、呼びかけに返事がない。

「圧迫材を肩へ。呼吸を見ろ。頭を捻るな!」

 一人の石工が手袋を着け、圧迫材を肩へ押し当てる。もう一人は担架の頭側を両手で支えた。

「たいちょう。うしろ、くる」

 ミアが俺の腕を二度叩き、土砂斜面を指した。

 ヤンが照準を置く。狼型が斜面へ出る。三発、五発と数える射撃ではない。走る先を短い帯で切り、馬と荷車から剥がすための火だ。

 灰色の群れが崩れた。

 残った影は東の林へ走る。ヤンは追わなかった。

 安全装置。銃口を上げず、走行位置へ戻す。

 最後の荷車へ追いつく。

 十二台目の右輪が浅い排水溝へ落ちかけた。石工たちが長い棒を差し、軽くなった荷台を内側から押す。HMMWVで横から引けば、道を塞いで後ろの獣へ時間を渡す。

 御者が馬を前へ向ける。三人が押す。

 車輪は、土を一度削って路面へ戻った。

 十二台目が進む。

 HMMWVも続く。

 危険区間の西端にある砕石平場へ、一台目が入った。二台目。三台目。

 俺は十二台目の後輪が平場へ乗るまで、速度を落とさなかった。

 HMMWVを止め、ヤンとガルムを東向きの警戒へ残す。俺は医療用手袋を着け、十二台目へ上がった。

 呼吸と脈はある。血を吸った圧迫材は剥がさず、上から新しい材を重ねた。丸めた布で頭の両側を支え、担架帯と荷締め帯を締め直す。呼名への反応はなく、頭の内側まではここで判断できない。

【運用員還流:ヤン/狼型魔物11体×50%】

【+110AP/現在残高:25,165AP】

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 ミアがイヤーマフの片側を浮かせた。

「うしろ、うま、ひとつ。まだ、とおい」

 旗小屋では一騎が旗番に残り、もう一騎が銃声を追っている。

 現地の護衛が倒した二体も路上に残る。東へ逃げた影は七。前に逃げた群れとも、旗番を襲った群れとも、同じだと決める印はない。

 採石請負人が名札を一枚ずつ読み上げた。

 返事が、二十九続く。

「三十人目はここだ!」

 六番組の御者が、十二台目の荷台を叩いた。

 ミアが男の口元へ耳を寄せる。

「いる。いき、ちいさい」

 十二台は抜けた。三十人目も、列から切り離していない。

 それでも、助かったと返事をしたのは、二十九人だけだった。


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【第24話 収支(AP)】
期首 25,345
収入 110
支出 290
期末 25,165
累計 96,315/システムLv3

【第24話 現地通貨】
期首 自由金 銀貨9枚+銅貨12枚
収入 0
支出 0
期末 自由金 銀貨9枚+銅貨12枚

※護衛料銀貨12枚は履行後払いです。話末は採石組が東門外へ戻らず、負傷者の診療・休息も未成立なので未収のままです。
※契約上の内訳は、リヒト商会5銀、ヤン4銀、村の代替見張り3銀。食事、水、馬草、採石組側の診療費と荷損は依頼主負担です。

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