第25話 助かった数は、後で数える 転生特典は米軍払い下げ?〜弾丸1発1ポイント。ハンヴィー1台から始める異世界軍事立国、気づけばイージス艦まで揃ってました〜

《転生およそ100日目・五の鐘後》

 三十人目の胸は、まだ動いていた。

「いき、ある。さっきより、ちいさい」

 ミアが男の口元から耳を上げる。

「助かったのか」

 採石請負人に、俺は首を振った。

「助かった数は、後で数えます。今は、息と血を見ます」

 男を載せた|担架《たんか》は、十二台目の荷床へ固定してある。右肩の圧迫材には赤が広がっていたが、端から垂れるほどではない。剥がさず、その上へ手を置いた。

 呼吸。脈。左右の瞳。手足への呼びかけ。

 返事がない。

「頭を動かすな。肩は押さえたまま」

 手袋を着けた石工が圧迫を引き継ぐ。もう一人が、丸めた布の間で男の頭を支えた。

 東の道から、|馬蹄《ばてい》の音が一つ近づいてくる。

「みかた。ひとり」

 旗小屋から出た護衛騎兵だった。もう一騎は、旗番二人のところへ残っている。

「東へ七。林へ入った。追ってはいない」

 ガルムが短く告げると、騎兵は倒れた狼型ではなく荷車を見た。

「門へ要る物を言え」

「採石組三十、荷車十二。返事なし一、軽傷二、負傷した馬一頭。|施療《せりょう》院の手車と薬師、馬を診る者、温かい天幕を」

「道は」

「七体が東へ逃げました。新しく入れるのは危険です」

 騎兵が復唱した。

「|道路方《どうろかた》へ閉鎖を上げる。お前たちは西へ戻れ」

 伝令札へ刻み、馬首を西へ返す。

 俺は画面を開いた。

『アルマ。通常処置の続きで、使えるものは』

『生命反応を確認。通常止血と頭部支持を維持してください。システム治療は、重傷安定化として適応します』

『頭の中も治るのか』

『損傷の有無と程度は確定できません。完全回復ではなく、搬送中の悪化を抑える処置です』

 返事のできない男は、頼むとも断るとも言えない。

 待って失う危険だけは、もう見えていた。

【重傷治療:-1,000AP】

【処置を開始します】

【現在残高:24,165AP】

 青白い光が、男の肩と頭の周りへ薄く広がった。口と鼻、圧迫材は覆わない。浅かった胸の上下がわずかに深くなり、不揃いだった間隔が揃う。

 目は開かなかった。

「運ぶ。十二台目は空荷のまま。歩く速さを、この馬に合わせる」

 後脚を裂かれた馬は、石材を下ろした|轅《ながえ》の間で立っていた。採石組の馬係が傷を水で流し、腫れと出血を見る。手を添えたまま一歩だけ歩かせると、|蹄《ひづめ》は地へ着いた。

「門までは歩かせる。着いたら休ませる」

 採石請負人が決めた。

 ヤンはM240を東へ向けたまま、架台箱を確かめる。

「隊長。今の箱に百。東を見ます」

 ガルムは動ける五人の護衛を、列の両側と最後尾へ置き直した。欠けた六番組には、自分がつく。

「旦那はそいつを見ろ。東は|儂《わし》らが見る」

 HMMWVは十二台目の後ろへつく。速く走れる車を、速く走らせない。前照灯で後輪と路肩を照らし、列の歩調を守る。

 十二台が、また西へ動いた。

 ◇

 日が落ちると、荷車の音だけが道へ残った。

 前から、車輪、馬、車輪、馬。後ろではHMMWVのディーゼルが低く続く。東の林に入った七体の音は戻らない。ミアは東へ耳を向けたまま、列を崩す合図を出さなかった。

 ミアはイヤーマフの片側を浮かせ、十二台目の男の呼吸と、後方の音を交互に拾った。

「たいちょう。このひと、のど、なった」

 ガルムが道へ立ち、停止の手を上げた。十二台が前から順に止まる。俺もHMMWVを路肩へ寄せ、駐車制動を掛けて十二台目へ上がった。男の喉で湿った音がする。

「身体を一つにして、少し横へ。頭だけ捻るな」

 三人で肩、腰、脚を支え、身体を一つにして横へ向ける。口元へ溜まった唾液を外へ流し、頭と背へ丸めた布を当てた。

 返事が戻らない間は、支えた横向きを保つ。

 喉の湿った音が消え、胸の上下が続いているのを確かめると、ガルムが再開の手を上げた。前の二台から順に動き、動ける五人の護衛が手信号を後ろへ送る。

「うま、みっつ。さっきの、ひと」

 先に帰った騎兵が、東門の予備二騎を連れて戻った。二騎は列の前とHMMWVの後ろへ分かれ、伝令した騎兵は泡の浮いた馬の首を撫でる。

「東門まで新規進入止めだ。薬師も出ている」

「門の予備は、これで空だ」

 伝える声に、採石請負人が一度だけ|頷《うなず》いた。

 列を捨てて走らなかったから、受入れの支度が先に走った。

 城壁の灯が見えても、誰も速度を上げなかった。傷ついた馬の歩調で、十二台目まで門前へ入れる。

 東門外の荷車回し場には、湯気の立つ|桶《おけ》と、灯りを入れた天幕が並んでいた。

 ◇

「返事のない者を先に」

 セルマが、施療院の手車を指した。

 十二台目から、商会の担架ごと男を下ろす。施療院の寝台板へ並べ、身体を一度だけ移した。

「肩の布は」

「剥がしていません。上から追加しました」

「それでいい。洗う水を切らすな。剥ぐ前に、次の圧を用意しな」

 セルマは男の|瞼《まぶた》を上げ、左右を見た。名前を呼び、手の甲を押す。男の顔がわずかに動いたが、言葉にはならない。

「頭の中までは、外から分からない。今夜は帰さないよ」

 水を飲ませようとした石工の|椀《わん》を、セルマが止めた。

「返事のない者へ飲ませるんじゃない。吐けば、息の道を塞ぐ。口へ入れるかは、こっちで決める」

 肩の|咬傷《こうしょう》は、桶を替えながら洗われた。血が落ち着いても水を止めず、石粉と獣の唾が見えなくなるまで続ける。|火酒《ひざけ》は使わない。その場で縫い閉じず、清潔な布を軽く当て、夜の感染監視へ回した。

 御者の手と、石工のふくらはぎも洗われる。商会の衛生兵|背嚢《はいのう》から追加の手袋と被覆材を出し、砂を落とし、指と足首を動かし、感覚を確かめてから布を巻いた。二人には湯と薄い|粥《かゆ》が渡された。

 残る二十七人にも、水、温かい汁、乾いた毛布、今夜の寝床が用意される。採石請負人は、食事札と天幕札へ自分の印を置いた。

 負傷した馬は荷を外され、馬囲いへ連れていかれた。傷を洗い直し、馬を診る者が深い裂け目や骨、|腱《けん》、関節の傷でないことを確かめる。乾いた敷き|藁《わら》の上で休ませ、馬草も手当ての銭も依頼主の札へ載った。

 門役は、往路の名簿と帰着した腰札を照合した。三十人は城内戸か、採石契約の仕事札を持っている。別の|請人《うけにん》も、新しい入市税も要らない。

 最後に、道路方の頭が十二台を数えた。

「荷車十二。門外着」

 名札を一枚ずつ読む。二十九人は回し場で返事をした。

「三十人目は施療院へ引渡し」

 セルマの受入札が、机へ置かれる。

 道路方の頭は、受取札へ〈帰着三十〉と書いた。

 画面は開かない。

 紙が証明したのは、十二台と三十人の行き先だ。男の明日までは、受け取ってくれない。

 採石請負人が銀貨の袋へ手を伸ばす。

「受取札は出た」

「契約は、これで履行です。ただ、十二枚は一つの財布へ入れられません。支払いは明朝、荷車組合の請人印の前で五、四、三に分けます」

「寝床は」

「別の勘定です」

 男は袋を戻し、天幕の火を一つ増やした。

 ヤンとガルムはM240の弾帯を給弾口から外し、給弾部と薬室を目と指で確かめた。銃口覆いと走行固定も戻す。M4も弾倉を外し、薬室を確認した。

 HMMWVは東門外の施錠荷改め場の車区画へ入れ、M240と弾薬、M4は隣の武器区画へ預けた。燃料は二割を切っていない。新しい補給表示は出なかった。

 衛生兵背嚢を開く。開封した圧迫材、手袋、被覆材、保温材を一つずつ数えた。

【衛生兵背嚢・再補充:-100AP】

【現在残高:24,065AP】

 商会の担架と荷締め帯は、施療院から返された。洗浄札を結び、別の防水布へ包む。

 東の街道は、朝の確認騎馬が戻るまで閉じられた。狼型十三体の死骸と魔石は路上に残し、商会分十一、採石組分二という権利だけを道路方の回収札へ記した。

 誰も取りに戻らない。

 今夜数えるのは、死骸ではない。

 ◇

《転生およそ101日目・朝》

「名前は」

 セルマの声に、寝台の男の瞼が動いた。

「……ベンノ」

「ここは」

 返事が出るまで、長い間があった。

「……東門、か」

「近いが違う。施療院だ。昨日のことは」

 ベンノは眉を寄せ、首を動かそうとした。セルマの手が額を止める。

「思い出さんでいい。今日は立つな」

 名前は戻った。昨日の記憶は、まだ戻っていない。

 飲み込む動きを確かめるまで、水も食事も止めたまま。呼吸、反応、吐き気、瞳の左右を、セルマの夜番札が一つずつ記録していた。

 天幕では、二十九人が朝の汁を受け取っている。軽傷の二人も、自分の椀を持てた。負傷した馬は、後脚へ体重を掛けて立っている。

 二十九人の椀は空になり、ベンノの寝台には〈飲ませるな〉の札が残った。三十人とも、診る者と休む場所を得ていた。

【人命救助(平時)×30:+3,000AP】

【現在残高:27,065AP】

【累計獲得AP:99,315】

【システムLv3/Lv4まで:685AP】

 十万まで、あと六百八十五。

 採石請負人と荷車組合の書記が、受取札を持ってきた。

 銀貨十二枚は、一つの財布へ入らない。

 五枚をリヒト商会の自由金へ。四枚をヤンの割り札へ。残る三枚は荷車組合が村の交替札と照合し、受取印を置いた村行きの封袋へ入れた。送達する責任も、組合の帳面へ残る。

 自由金は、銀貨十四枚と銅貨十二枚になった。

「荷損と診療費は、こっちの勘定だ」

 採石請負人が、十二台目の空いた欄へ印を置く。捨てた石と三人一頭の処置代を、護衛料から引かなかった。

 道路方の頭が、夜の伝令札を机へ出した。

 〈銃声あり〉

 その下へ、騎兵が後から刻んだ〈重一、軽二、馬一〉が続いている。

「音は先に届いた。寝台の数は、馬が着くまで分からなかった」

 詳細札を運ぶために旗小屋の護衛一騎を外し、着くまで施療院は手車を三台空け、東門は予備の二騎を止めていた。重傷が一人か、三十人か、音だけでは分からなかった。

 指が、二つの行の間で止まる。

「次も、一頭へ全部を載せるか」

 Lv4の棚より先に要るものは、決まった。

 尾根と門の間を、馬一頭より速く渡る声。

 その運び方は、まだ空欄だった。

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※ここから下は「あとがき」欄に貼る部分。

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【第25話 収支(AP)】
期首 25,165
収入 3,000
支出 1,100
期末 27,065
累計 99,315/システムLv3

【第25話 現地通貨】
期首 自由金 銀貨9枚+銅貨12枚
収入 銀貨5枚
支出 0
期末 自由金 銀貨14枚+銅貨12枚

※護衛料12銀は契約どおり、商会5銀、ヤン4銀、村代替見張り3銀へ分配しました。村分は荷車組合が受領・送達責任を負う村行き封袋へ入れ、ヤン分とともに商会自由金へ含めません。

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