《転生およそ101日目・朝》
「〈銃声あり〉では、|担架《たんか》の数が決まらん」
|道路方《どうろかた》の頭が、一枚の伝令札を机へ置いた。
先に刻まれた行には、〈銃声あり〉。
その下へ、騎兵が後から〈重一、軽二、馬一〉を刻んでいる。
二つの行の間で、旗小屋の護衛一騎と、東門の予備二騎が動いた。|施療《せりょう》院は手車を三台空けたまま、何人運ぶのかを待った。
「声だけなら、ここまで届いた」
男の指が、上の行を叩く。
「だが、役に立つ数は馬に乗ってきた。次も同じなら、同じだけ人を止める」
朝の確認騎馬は戻っていた。新しい狼型との接触はなし。東へ逃げた七体の先は、確認範囲の外。路上には十三体の死骸が残り、一般の荷車はまだ止められている。
俺は、二つの行の間へ指一本を置いた。
「この間を埋めます」
「鉄の車で走るか」
「俺が運転して、車と俺を一つの伝令へ縛ることになります。別の道で何か起きれば、どちらにも行けません」
HMMWVは速い。だが、一台で二つの場所にはいられない。
『アルマ。今のレベルで、門と尾根と移動班を繋げる物』
視界の端へ品目が並ぶ。
個人無線。車載無線。背負う中継機。伸縮柱を持つ簡易中継所。野戦電話と被覆線。
強い物から選ぶ話ではなかった。
車載無線は、車を置いた場所に声を縛る。背負う中継機は四時間ごとに電池と担ぐ人が要る。簡易中継所は高所へ置けるが、発電機か日々の電池交換を食う。
野戦電話なら、門から旗小屋まで地形の裏側を線で通せる。動かない二点へ無線機を縛らず、動く区間にだけ持たせられる。
「線が切れたら、誰が探すんじゃ」
ガルムが一覧ではなく、机の外を見て|訊《き》いた。
「道路方の巡回です」
頭が答える。
「旗を見る人間を、線を見る人間に替える気はない。仕事を足すなら、どこまで足すか先に書け」
「定時と作業中だけ通話します。無線を一日中つけません。四台のうち一台は電源を入れず、本体ごと予備にします」
「届かん場所は」
「騎馬を残します。今日、同じ道で切れる場所を探します」
あと六百八十五で、戦車の棚が開く。
だが、戦車一両は〈重一、軽二〉を門へ伝えない。
【野戦電話2台+被覆線1km:-150AP】
【野戦電話線10km巻+接続具:-300AP】
【無線機(個人用)×4:-2,000AP】
【現在残高:24,615AP】
黒い電話機二台と、巻かれた線。|掌《てのひら》より少し大きい無線機が四台、机の脇へ現れた。
道路方の頭は驚くより先に、受領札を出した。
所有はリヒト商会。道路方へ預けるのは、いま続いている定時旗試験が終わる日まで。
電話は門側と旗小屋側に一台ずつ。無線は旗小屋、通常の作業班、別班用に各一台、残る一台は東門で予備とする。持ち出すたび、番号と人と時刻を書く。
「声で人は出す」
道路方の頭が、札の末尾へ線を引いた。
「帳面を閉じるのは、署名した札が来てからだ」
「それでお願いします」
紙の代わりを買ったわけではない。
紙が来る前に、人を動かす時間を買った。
◇
ヤンとガルムは、出発前に商会M240の清掃と給油を終えた。給弾部と薬室、銃身、機関部を確認し、使用不可札を外す。M240と九百発は武器区画へ戻し、今日は持ち出さない。
HMMWVへ積んだのは、線の巻き枠、電話機、無線機、工具、それからM4と百七十五発だった。発砲するためではない。東へ逃げた七体が、消えたと決まったわけではない。
一般通行を止めたまま、道路方の作業班と回収用の荷車だけが東門を出た。
線は道路の中央へ置けない。荷車の車輪と馬の脚が通らない側へ寄せ、石の留め具で浮かせ、沢筋では古い排水溝の縁を渡した。
HMMWVは歩く速さで巻き枠を運ぶ。道路方の二人が線を送り、後ろの二人がたるみと擦れを直した。ガルムは車輪の通る幅を見て、線を置き直す場所だけを指した。
「旦那。声の道も、|轍《わだち》の外へ置くんじゃな」
「切れたら、声だけ消えますから」
旗小屋へ近づくほど、道は石切り場の尾根へ沿って曲がる。十キロの巻を使い切る前に、旗小屋側の電話へ線が届いた。
ミアが受話器を耳へ当てる。
「たいちょう、いる。でも、とおい」
東門の書記が、線の向こうで自分の名を名乗った。
声は、尾根を曲がった。
無線機一台を旗番へ渡す。番号札を革紐へ結び、送話の押し方、離し方、相手の声を待つ順を教えた。
「聞こえた、だけでは終わらせない」
道路方の頭が、旗番の|蝋板《ろうばん》へ四つの欄を刻んだ。
場所。危険。人と傷。要る物。
「全部、復唱する。違えば送り直せ」
旗番が四つの欄を、指で順に追った。
電話の線を確かめたあと、作業班はさらに東へ進んだ。回収用の荷車が、路上の狼型を札どおり二つに分ける。商会火器の十一体と、採石組の槍の二体。魔石は抜かず、死骸ごと別の覆いへ入れた。
人より先には戻らなかった十三体を、今度は人が数えて運ぶ。
換金はしない。画面も開かない。
路面が空くと、道路方の作業札に〈死骸除去〉が加わった。だが、一般通行を再開する印はまだ置かれない。
先に、声を試す。
◇
前夜に三十人を数えた砕石平場で、俺は無線機を持った。
ヤンはもう一台を持ち、東側の|切通《きりどお》しへ入る。道路方の護衛二人が、その前後についた。
旗小屋は尾根の上にある。白旗なら門から見える。だが、低い道からは石壁と林が重なっていた。
「道一から旗一。試験を始める」
「旗一。聞こえる」
「第七杭西。狼型の新しい接触なし。人三十、重一、軽二、馬一。東へ七。要る物、手車一、薬師一、馬を診る者一。復唱せよ」
一度目の声は、平場から旗小屋まで届いた。
「第七杭西。新しい接触なし。人三十、重一、軽二、馬一。東へ七。手車一、薬師一、馬を診る者一」
「道一、相違なし」
旗番は同じ文を野戦電話へ移した。東門の書記が、場所から要る物までを復唱する。その復唱を旗番が無線で俺たちへ返した。
砂時計の砂は、まだ三分の一も落ちていない。
次は、ヤンが切通しの底から送る。
「道二から旗一。第七――」
声が砕けた。
「――一、馬――東へ――」
「旗一。聞き取れない。送るな、位置を戻せ」
旗番は、分かったふりをしなかった。
ヤンが十歩戻る。まだ途切れる。
二十歩。石壁の上端が開ける場所まで戻ると、雑音の奥から声が繋がった。
「道二。戻った」
「旗一。全文を送り直せ」
同じ文が、二度目は一つも欠けずに届いた。
無線は石壁を曲がらなかった。
ガルムが、通じた場所の路肩へ白い小石を置く。道路方の男が杭を打ち、〈声ここまで〉と刻んだ。切通しの反対側にも、同じように声が戻る地点を探して杭を置く。
「切通しの中で怪我人が出たら、ここまで誰かが走る」
道路方の頭が言った。
「走れん時は」
「旗と騎馬です」
「なら、消すな」
定時旗、護衛騎馬、署名札は残る。馬が走る距離だけを、現場から近い方の杭までへ縮めた。
旗小屋に一台。通常の作業班に一台。別班用の一台は、貸し出す時だけ電源を入れる。四台目は東門で封をしたまま、交替機を運び直す時に備える。
被覆線は二の鐘前に一回、五の鐘後に一回、道路方が巡回する。断線、電池切れ、復唱失敗のどれか一つでもあれば、その区間は従来どおり騎馬確認へ戻す。
試験中の巡回は、道路方の既存人足へ足す。試験後も続ける電池と人足の費用は、まだ札の外だ。
便利になったから、ただにはならない。
◇
道路方の頭が署名札を持って、東門へ先に戻った。俺たちは二本の杭の位置と、残った線の長さを作業札へ写す。
やがて無線機から、旗番の声が返った。
「旗一から道一。門一の命令。十三体は回収済み。新しい生体接触なし。切通しの盲区間は二本の杭の間。旗番二人と護衛条件は継続。署名札と照合した」
「閉鎖札を裏返す。一般の荷車を通す。声で止める時も、止めるのは道路方だ」
「道一、命令受領」
無線機が、もう一度鳴った。旗小屋の声が出る。
「旗一から道一。門一の伝言。第百十日、一の鐘。主計方の蔵へ来い」
「道一。続けて」
「第二回の講義で線を引いた数と、下見の数が合わない。帳簿と現物を、もう一度数える」
「復唱する。第百十日、一の鐘。主計方の蔵。帳簿と下見が合わない。現物を再確認」
「旗一、相違なし」
線の残りと工具を積み、HMMWVで東門へ戻った時も、主計方の使いは机の前に立っていた。馬を出す札は、まだ白紙だった。
俺は機材預け札へ印を置いた。既存の旗試験が終わる日に、線、電話、無線四台を|棚卸《たなおろ》しする。恒久使用と電池の勘定は、その結果を見て決める。
HMMWVを車区画へ戻し、M4と弾薬を武器区画へ預けた。短い往復で、燃料は二割を切っていない。
馬より先に、声が着いた。
その声が運んできたのは、満杯の帳簿と、足りない蔵の話だった。
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【第26話 収支(AP)】
期首 27,065
収入 0
支出 2,450
期末 24,615
累計 99,315/システムLv3
【第26話 現地通貨】
期首 自由金 銀貨14枚+銅貨12枚
収入 0
支出 0
期末 自由金 銀貨14枚+銅貨12枚

