第29話 道は、蔵の外にある 転生特典は米軍払い下げ?〜弾丸1発1ポイント。ハンヴィー1台から始める異世界軍事立国、気づけばイージス艦まで揃ってました〜

《転生およそ112日目・朝》

 道の底で、水が鳴っていた。

 その上へ、人足を一人も乗せられない。

 第三荘へ続く|荘道《しょうどう》では、昨日と同じ空荷車が片輪を泥へ沈めていた。立入止めの二本の杭も動いていない。

 三日間の測量と試し掘り。その初日だ。

「今日の日暮れまでに決めるのは、三つです」

 俺は路図の空欄を指した。

「水の逃がし先。掘った泥の行き先。それから、機械を置ける地面です」

 |道路方《どうろかた》の人足が八人。水路番、石工二人、荷車組合の滑車班、|荘代《しょうだい》、領家の若い書記と護衛二人がいる。

 昨日、調査杭を止めた牧草地の女と、山側の冬畑を持つ男も来ていた。

「先に言っておきます」

 女が谷側の草地を指す。

「水も泥も、あそこへ勝手に流さないでください。春の草が刈れなくなれば、泥の値だけでは済みません」

「分かりました。止める時は、あなたが止めてください」

 俺が答えると、女は一度だけ|頷《うなず》いた。

「畑へ鉄の|履帯《りたい》を入れるなら、使う幅を先に打ってくれ」

 冬畑の男が続ける。

「広く使った後で、必要だったと言われても認めん」

 道路の中は道路方が決める。道の外は持ち主が決める。その線を消した工事は、道が通っても完成にはならない。

 HMMWVは東門外へ置いてきた。今日は人と測り縄が先だ。俺たち三人とM4、五・五六ミリ弾百七十五発は、領家の乗合馬車と荷を載せた馬で来た。

 荷車は泥の手前へ残し、人と馬だけが許可済みの畑縁を歩いて越えている。

 荷床から道具を下ろす前に、道路方の男が工事札を読み上げた。

「道外の土地、現地の人足、石、木、水路番、食事と警備は領家道路勘定。商会持ちの道具と機械はリヒト商会の所有。操縦も商会が請ける」

「支払いは」

 ガルムが|訊《き》く。

「空荷車を荘へ入れ、最初の積載麦車を公道へ通し、再開印が出た後だ。機械賃と操縦賃は、今朝双方で札へ置いた半刻あたりの単価と、運転札の実働時間で査定する。今日のうちに銭は動かさん」

 ただ働きではない。まだ、履行していないだけだ。事故の責任も、操縦、道路方の指示、予測できなかった地中崩れに分けて書かれている。

「それなら買います」

 目録から、昨日見た一行を選んだ。

【道路応急補修セット:-300AP】

【現在残高:24,225AP】

 光の中へ、シャベル、つるはし、手持ちの転圧具、排水用の道具、路盤布、杭、|土嚢《どのう》が束になって現れた。

「これだけで|暗渠《あんきょ》は直りません」

 俺は先に言った。

「今日は、水を少しずつ逃がす。人が入らずに底を測る。掘った物を混ぜずに置く。そのために使います」

「これだけ揃えても、穴は直らんのか」

 ガルムが路盤布を引っ張る。

「穴を直す前に、人を穴へ落とさない道具です」

「なら安いの」

 布を引く手が、少しだけ強くなった。

 ◇

 谷側の古い吐口は、黒い土と腐った木で塞がっていた。

 水路番が斜面のさらに下を歩き、牧草地の境に残る古い水溝までの高低を見て戻る。

「境の水溝へなら落とせます。牧草地を横切らず、吐口から短い受けを切れば」

「一度に開ければどうなる」

 石工が訊く。

「上に溜まった水と、道の中の泥が来ます。吐口の前に人がいれば巻き込まれます」

 まず、吐口から境の水溝まで浅い受けを切り、底へ薄板を置いて粘土で隙間を詰めた。途中には路盤布と土嚢で、泥を受ける浅い|枡《ます》を三つ作る。

 路盤布は水を止めず、黒い泥を|濾《こ》して枡へ残す。牧草地の女と水路番が、受け溝から外へ水が溢れないことを確かめた。

「ここまでは通していいです」

 女が言う。

「草地へ越えたら止めます」

 吐口へ触る前に、危険杭の外へもう一本、退避線を張った。ガルムがその線を、道の左右で二度確かめる。

「旦那。穴の底ばかり見るな。立っとる地面から先に落ちることがある」

 空洞の外縁から、路面と底の高低差と同じだけ退く。俺の単位で、およそ四メートル。試し掘りの間は、そのさらに外へ人を置いた。

 誰も吐口の正面へ立たない。石工が横から腐った木を一片だけ外す。

 濁った水が、指ほどの太さで出た。

「一本目」

 水路番が上流の水位杭へ印を入れる。

 流れが澄むまで待ち、もう一片を外す。水が腕ほどに太くなり、最初の泥受けが黒く満ちた。二つ目へは薄い水が落ちる。

「たいちょう。した、まだ、みず」

 ミアが退避線の外で耳を伏せている。

「みちのなか、さっきより、ちかい」

「止めるぞ」

 水路番が手を上げた。

 石工は木を抜かず、土嚢を一つ吐口へ滑らせた。流れを細く戻す。

 その直後、誰もいない路面で、乾いて見えた土が低く割れた。

 空荷車の沈んでいた片輪が、さらに手の幅ほど落ちる。

 馬も人も、縄の外にいる。

 それでも土の落ちる音に、人足が一歩ずつ退いた。

「今のが、道の中にあった空きですか」

 若い書記が声を落とす。

「空きの端だ。全部とは書けん」

 道路方の男が、割れ目の位置を路図へ移した。

「水を落とせば安全になる、ではない。支えに見えていた泥も動く。測った順に開ける」

 最初から大きく吐口を開けていれば、空荷車だけでは済まなかった。牧草地の女が、俺ではなく水路番へ聞く。

「境の水溝から、草地へ溢れていませんか」

「三つの枡で泥は止まっています。水も境の中です」

「なら、次の一段まで」

 許可は、一段ずつ出た。

 ◇

 水位が下がった分だけ、谷側から節を継いだ測り棒を入れた。

 腐った木枠が続く。途中で棒が土に当たり、向きを変えても抜けない区間がある。水路番の昔の修繕札と合わせ、吐口から六メートルほどは、木と土が通り道を失っていた。

 閉塞の先へ人は入れない。路面から暗渠の底までは、俺の単位で三・九メートルだった。

 危険な路面へ機械を載せずに届かせるには、掘る深さだけでなく、退避線の外から腕を伸ばす距離が要る。

 道路方の男が、四本目の杭を打つ。

「確定したのは、底の深さ、吐口側で通らない長さ、機械を置いてよい線までだ。奥の壊れ方は、掘って見えるまでは書かん」

 俺は《モグラ》の教範を開いた。村にある四トン級は、掘れる深さが三メートルに届かず、地上へ伸ばせる腕も五メートルほどだ。

 穴の真上へ載せれば、数字だけは近づく。だが、その地面が落ちる。

「村から運んでも、届きません」

「三百キロ運んでから分かるよりは安いの」

 ガルムが教範の図と退避線を見比べる。

「爪が短い。腹を置く土もない」

 《モグラ》は、村の畑と水路を直す機械だ。この穴へ落とすために、取りに戻る六百キロを払う機械ではない。

 もう一つ、空荷車を残したままにもできなかった。持ち主は荷車組合の回収札へ印を置いている。

 馬を外した時に軸へ残した縄が、泥の上へ伸びていた。

 滑車班が堅い側の大木と地面杭へ滑車を組む。人は退避線の外に立ち、四人ずつ縄を引いた。

「引け」

 車輪が泥の中で空回りする。

「止めろ。右を半分」

 左右の縄をずらし、沈んだ車輪を真っすぐにする。

 二度目で、黒い泥が車輪を放した。

 空荷車が半車身ずつ堅い地面へ滑る。最後の車輪が退避線を越えると、滑車班の男たちは縄を離さず、そのまま車止めまで運んだ。

 壊れた車軸はない。泥を落とし、車輪と軸の回りを点検すれば、また使える。鉄の車を出さなくても、現地の滑車と四人の背中が一台を取り戻した。

「道はまだ閉じたままです」

 道路方の男は、回収札と閉鎖札を分けた。

 小さな勝ちを、開通とは書かなかった。

 ◇

 午後は、掘る物を分けて数えた。危険区間の長さ、道幅、三か所の測点で取った水位と測り棒の当たり、腐った木枠の線を、石工が断面図へ落とす。

 三つの断面から見積もると、撤去が必要な土石は、締まった状態でおよそ四十五立方メートル。掘り起こせば膨らみ、全体で六十立方メートルほどになる。

 現地の札では、土運びの籠と荷車の台数へ直した。

 石工が首を振る。

「全部を泥にするな。上の石と、まだ締まっている土は別に置けば、戻す時に使える」

 黒い泥だけを、古い採土場へ送る。腐った木は水切り用の布へ別置きし、水を含んだ路盤石と使える土も、道の山側に路盤布を敷いて崩壊縁から離して積む。

 採土場は第三荘の共同地だった。荘代が管理札を開き、三日間の土置場利用へ印を置く。

 容量は、俺の単位へ直せば約八十立方メートル。石と腐った木を除けば、入る湿泥は六十立方メートルを下回る見込みだ。越えた時は工事を止め、荘代と|荘会《しょうかい》の追加同意を取る。

 牧草地へ捨てる土は、ゼロになった。

「泥を置く場所は、それでいいです」

 牧草地の女が断面図へ印を置く。

「でも、履帯を畑へ入れる場所は別です」

 冬畑の男が、牧草地の女とは別の境石を指した。正しい。

 機械の作業台には、堅い地面が要る。危険区間の端から腕を伸ばすのではない。暗渠中心の側方で、空洞外縁から四メートル以上退いた冬畑へ十歩余り食い込む広さを縄で囲んだ。

 石工が四隅へ試し杭を打つ。浅い表土の下で、四本とも同じ小石混じりの硬い層へ当たり、水は上がらなかった。

 作物の損失は実測し、領家道路勘定が市場値で補償する。搬入帯は一筋だけ。工事後は表土を戻し、排水を畑へ向けない。

「倉の麦を出して、次の麦を減らす工事にはしたくありません」

 荘代が言う。

「この線なら、荘会で出せます」

 道路方、荘代、牧草地と冬畑の二人の持ち主、領家の書記が、土置場と作業台の札へ印を置いた。

 人足の立つ場所。機械の立つ場所。泥の行き先。

 道の外にある三つが、先に決まった。

 工程札には、まだ一つ空欄が残る。

「暗渠本体は、この補修道具には入っていません」

 俺は補修セットの札を指した。

「明日は、仮設の暗渠材を別に用意します。今日は掘削機を置くところまでです」

 恒久の石組みを一晩で作ったことにはしない。まず軽い麦車を通し、その後で本工事を別に組む。

 ◇

 日が傾く前に、囲った作業台の表土を薄く剥ぎ、別の布へ置いた。工事後に戻す土だ。

 露出した硬い層へ路盤布を敷き、現地の砕石を重ね、転圧具で締める。布は柔らかい畑を強い地面へ変える物ではない。砕石と残った表土を混ぜず、後で剥がすための境だ。

 石工が四隅の高さを見て、道路方が旋回範囲の外へ縄を張った。

 路図と四隅の杭を目録へ登録し、工事中だけ使う補給地点に指定する。

 馬は畑の反対側へ移す。

「小型・多目的と、標準掘削。取り寄せる機械は、一台ごとに仕様を選べます」

 目録には三つの姿が並んでいる。村で選んだのは、四トン級の小型多目的ショベル。狭い畑や水路、墓溝へ入れる《モグラ》だ。

 今回は違う。

 十トン級。標準の腕で、深さ約五メートル、地上へ七メートル以上届く。二十トン級も、長い腕だけの特別仕様も、この棚にはない。

 退避線から暗渠の底へ届く、最小の一台だった。

「買います」

【建設重機(標準掘削ショベル仕様):-10,000AP】

【納品先:第三荘道・登録補給地点】

【現在残高:14,225AP】

 青白い光が、縄の内側へ広がった。

 最初に見えたのは、黄色い履帯だった。次に車体、運転席、太いブーム。その先で、大きなバケットが内側へ丸まっている。

 油と新しい塗料の匂いが、湿った土の匂いを押し返した。

 十秒後、約十トンの機械が、道の外へ立っていた。

 馬が二頭、後ろへ下がる。護衛が|手綱《たづな》を短く持ち、さらに距離を取った。

「もぐら、おおきくなった」

 ミアが目を見開く。

「別の一台だ」

「おおきい、もぐら」

 訂正は通らなかった。

 石工は機械の大きさではなく、バケットを見た。

「あれ一杯で、籠が幾つ要る」

 牧草地の女は履帯の位置を見る。

「縄の外へ出ませんね」

「出しません」

 機械を出す前に、俺は誘導札へ旋回範囲、合図役、接近してよい状態を書いた。必要な水平距離の位置にも、白い杭を一本打つ。

 道路方の男は驚いていたが、その札を先に持った。

「合図は道路方が出す。人足は縄の外。近づくのは、|匙《さじ》を地へ置いて音が止まってからだ」

 村で《モグラ》を初めて動かした時は、俺が全員へ教えた決まりだった。今は、道路方が先に言った。

 付属の教範を開き、操作配列、安全ロック、非常停止を《モグラ》と照合する。違う位置へある操作を誘導札へ足してから、始業前点検をした。

 俺は運転席へ上がり、エンジンを掛けた。ブームを少し上げ、人のいない硬地側へ腕を伸ばすと、バケットの爪先が白い杭を越えた。

 そこが、安全線から暗渠底へ必要な水平距離だ。爪を空中で一度だけ巻き込み、腕を戻す。

 鉄の爪が、夕日の中で大きな弧を描いた。

 掘らない。今日は、届くことまでを確かめる日だ。

 バケットを作業台へ置き、エンジンを切る。道路方の男が、工程札の最後の空欄へ〈機械、到着〉と書いた。

「水を流しながら、最初の一杯をどこから取る」

 水路番が、暗くなり始めた吐口を見る。

 バケットは、まだ一度も土を噛んでいない。

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※ここから下は「あとがき」欄に貼る部分。

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【第29話 収支(AP)】
期首 24,525
収入 0
支出 10,300
期末 14,225
累計 99,315/システムLv3

【第29話 現地通貨】
期首 自由金 銀貨26枚+銅貨12枚
収入 0
支出 0
期末 自由金 銀貨26枚+銅貨12枚

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