第30話 満杯の蔵を動かせ 転生特典は米軍払い下げ?〜弾丸1発1ポイント。ハンヴィー1台から始める異世界軍事立国、気づけばイージス艦まで揃ってました〜

《転生およそ113日目・夜明け前》

 最初の一杯は、水路番が決めた。

「吐口の山側です。腐った横木には触れず、黒い泥だけを薄く取ってください」

 昨日の夕日に光っていた十トン級ショベルが、薄明かりの中で暗い塊になっている。その鉄の爪をどこへ入れるかは、機械を買った俺ではなく、ここで水を見てきた男が選んだ。

 十トンの爪は買えても、最初に噛ませる土までは買えない。

 俺は運転席へ上がる前に、工程札をもう一度読んだ。

 上流の水位。三つの泥受け。牧草地との境。人の退避線。機械の旋回線。湿泥、腐った木、戻せる石と土の置き場。

 |道路方《どうろかた》の誘導員が、赤と白の旗を持つ。赤は停止、白は一動作だけ許可。どちらも見えなくなれば、俺は機械を止める。

「買う物が、もう一つあります」

 目録を開いた。

【仮設小橋・暗渠セット:-2,500AP】

【納品先:第三荘道・登録補給地点】

【現在残高:11,725AP】

 施錠資材天幕の前へ、青白い光が広がる。十秒後、軽い桁と床板、二本の|暗渠《あんきょ》管、固定具が番号札ごとに並んだ。

 道路方と石工が、届いた数を目録札と照らす。一本足りないまま土へ埋めれば、後で足りなかった理由まで掘り返すことになる。

「これは商会から道路方へ、期限付きで貸す材です」

 俺は追加の使用札を差し出した。

「恒久の石組みが入った後は、傷みを検めて返す。使っている間の破損と仮設材使用料は領家道路勘定。札に定めた重さを超える車は通しません」

「麦車は」

 |荘代《しょうだい》が聞く。

「最初は八袋です。道の沈みを見て、道路方が十袋まで決めます。一台ずつ、歩く速さで」

 荷車本体、御者、積荷をすべて足して、俺の単位で総重量二トン以下。それが仮設材の上限だった。

 四百四十袋を一度に通す道ではない。だが、一袋も出せなかった道を、荷車が繰り返し使える道へ戻す。

 使用札へ領家書記、道路方、荘代が印を置いた。俺が倒れなければ開かない格納庫ではなく、御者なら誰でも使える通り道にするための二千五百APだ。

 ◇

 馬を風上へ離し、人足を縄の外へ出す。

 赤旗と白旗の色を、互いに見分けられる明るさまで待った。薄明かりのうちは、点検と配置だけに使う。

 付属教範、燃料、油、冷却水、|履帯《りたい》、旋回範囲を確認する。俺が親指を立てると、道路方の男が白旗を一度だけ上げた。

 エンジンが目を覚ます。

 低い振動が作業台から足の裏へ伝わり、吐口の水面が細かく揺れた。ガルムは機械を見ず、人足の足が縄を越えていないかを見ている。

「十人分の腕じゃ、旦那」

 イヤーマフ越しでも、腹へ響く声は分かった。

「十人分、間違えれば十人分落ちる。小さく始めろ」

 白旗がもう一度上がる。

 ブームを伸ばし、バケットの角度を浅くする。水路番が示した黒泥の表面へ、爪先だけを置いた。

 押し込まない。手前へ撫でる。

 土の皮が裂けた。黒い泥が、大きな一塊になって鉄の|匙《さじ》へ乗る。水を吸った重さが油圧へ返り、それでも腕は止まらず持ち上がった。

 人足の籠なら何往復になるのか、すぐには数えられない量だった。

 俺は旋回し、旧採土場行きの荷車へ泥を落とす。

 どさり、と荷床が沈んだ。

 短い歓声が上がる。

「見惚れるな!」

 石工の声が、それを切った。

「黒泥は採土場。石は山側。木は布の上だ。次の車を寄せろ」

 人足が動く。泥車は一台ずつ共同の旧採土場へ向かい、空車が別の作業帯から戻る。再利用できる石は石工が白札へ、腐った木は水切り布の赤札へ分けた。

 機械が一杯を取る間に、人が次の行き先を作る。重機の速さに荷車が追いつかなければ、十トンの爪も泥を抱えたまま止まる。

「たいちょう。みずのにおい、かわった」

 ミアが退避線の外から言った。

「つちより、つよい」

 水路番が上流杭を見る。水位は一目盛り下がり、二つ目の泥受けへ落ちる水が濃くなっていた。

「次の一段を閉じます。流れが澄むまで、土だけ取ってください」

 赤旗が上がる。

 俺はバケットを作業台へ置き、エンジンを落とした。

 速く掘れるから、待たずに掘っていいわけではない。

 泥受けを人足が交換し、水路番と牧草地の女が境の水溝を歩く。草地へ黒い水が越えていない。確認の印が一つ増えてから、白旗が戻った。

 掘る。止める。分ける。水を見る。

 同じ順を崩さず、吐口側から薄く開いていった。

 ◇

 昼前、バケットの爪が泥の下で硬い物へ触れた。

 石ではない。押すと、わずかに沈む。

 俺は操作を緩め、爪先を返しかけた。

「した、ひびく」

 ミアが両耳を前へ向ける。

「みず、さっきより、ちかい」

 上流の水位杭は、さっきよりわずかに上がっていた。それなのに吐口の流れは細い。

「抜くな」

 石工が叫び、道路方が赤旗を上げた。爪が巻き込む直前で、俺はバケットを止める。

 石工が縄の外から長い|鉤《かぎ》を伸ばし、泥の間に見えた木へ触れた。黒くなった横木は、中央が折れても両端を土へ食い込ませている。

「腐っていても、今は横の土を止めている。先に両脇を軽くしろ。引けば、水と壁が一緒に来る」

 買ったばかりの鉄の爪には、横木一本を引き千切る力がある。

 だから、引かない。

 水路番が仮排水を一段細く戻し、道路方が退避線を杭一本ぶん下げた。石工は別の長木へ、残す面と取る面の色を塗る。

 俺は横木の左右から、一杯ずつ泥を取った。バケットの中身は、持ち上げるたび石工が見る。戻せる石が混じれば山側へ、黒泥なら採土場へ送った。

 横木の下から濁水が太くなった。

「止め!」

 水路番と道路方の声が重なる。

 バケットを地へ置く。人足は縄からさらに二歩下がった。

 横木の谷側で、泥の壁が一抱えほど崩れた。誰もいない穴へ落ち、黒い水が最初の泥受けを満たす。二つ目の受けで勢いが落ち、三つ目からは濁った水だけが境の溝へ流れた。

 牧草地の女が下流を見て戻る。

「草地へは越えていません」

「なら、水が澄むまで待ちます」

 水路番は再開を急がなかった。

 十分ほど後、流れは腕の太さから指二本ほどへ戻った。石工が横木の両端を見て、長い鎖を掛ける位置を決める。人は穴へ入らず、鉤と縄で鎖を回した。

 俺は機体の正規吊り点で鎖を受け、真上ではなく谷側へゆっくり引いた。

 腐った木が折れた音を立て、六メートルぶんの暗い穴から抜ける。

 その奥に、潰れた木組みと石の底が初めて見えた。

「昨日書けなかった所です」

 道路方の男が、掘削札へ線を足す。

「吐口から、目盛り縄の六つ目まで。木組みの中央が落ちている。ここから先は通水あり。確認した」

 推定だった壊れ方が、現物になった。

 ◇

 午後、ショベルは崩れた木と土を取り除き、石工は底へ残せる石を選んだ。

 掘り起こした物は、見込みどおり荷車と籠へ分かれた。湿泥は旧採土場の八十立方メートル枠を越えず、牧草地へ捨てた泥はない。腐木は別置きし、使える石と締まった土は復旧側へ戻す。

 路面の上では速かった鉄の爪も、最後の底石は一枚ずつ扱う。石工が合図を出し、俺が置き、水準を見てから次へ進む。

 掘削機が地面を作るのではない。地面を作れる形に、重い物を動かしている。

 日が傾くころ、壊れた木組みがあった場所へ、締まった石の床が現れた。

「今日は、ここまでです」

 道路方の男が運転札の欄を閉じた。

 エンジンを動かした半刻欄は、五つ埋まっている。燃料は二割を大きく上回り、給油表示は出ていない。

 作業員八人が、番号を照らしながら二本の暗渠管を硬地でつないだ。合わせれば、壊れた六つの目盛りを置き換えられる長さになる。

 地上にあるうちに現地木材の管床と横ずれ止めも仮組みし、石工が接続部を検めた。

 機体側と管側の正規吊り点へ吊り具を掛け、両端の控え縄は人足が退避線の外から持つ。ショベルは一体になった管を側方から吊り、人を穴へ入れずに石床へ下ろした。

 水路番と石工は、目盛り糸と長い棒で勾配と据わりを地上から確かめる。谷側には現地石で短い吐口を作って、三段の泥受けへ水を導いた。

 水路番が上流を一段開く。

 細い水が、二本をつないだ管の向こうから出た。継ぎ目を見ても、大きな漏れはない。

 まだ土は被せない。夜の水を一度通し、沈みと漏れを見る。

 道は閉じたまま、夜番が水位杭と三つの泥受けを見張った。

 ◇

《転生およそ114日目・夜明け》

 夜の間に、管は沈まなかった。

 継ぎ目からの大きな漏れもなく、下流の牧草地へ泥水は越えていない。水路番が吐口へ手を入れ、流れを確かめる。

「戻していいです」

 白旗が上がった。

 再利用する石を管の両脇へ同じ高さずつ入れ、ショベルのバケットの背で左右交互に押さえる。穴が人の背より浅くなるまでは、人足を入れない。

 その上へ乾いた土を薄く重ね、退避線を解ける高さまで戻ってから、人足が手持ちの転圧具で締める。厚く一度に埋めれば、表面だけ固く見えて中が沈む。鉄のバケットは土を運べても、上層を均一に締めて車輪を支える手の代わりにはならない。

 石工が高さを測り、荷車組合の男が車輪の通る二本の線を決める。軽い桁と床板を荷重を散らす向きへ渡し、路盤布を戻して砕石を敷き、同じ線を何度も締めた。

 最後の一層を均すと、俺はショベルを作業台へ戻した。運転札へ六つ目の半刻印を置き、バケットを地へ下ろす。

 目録から車体を選ぶ。

 十秒後、黄色い機械が青白い光へ消えた。格納庫の三枠を使い、燃料は二割を上回る。補給予約は出ていない。

 履帯のなくなった作業台から、砕石と路盤布を外す。別置きしていた表土を戻し、排水が畑へ向かない形へ均した。

 冬畑の男は、使った幅と戻した土を自分の目で確かめた。失った作物の補償札と、表土返却の欄へ別々に印を置く。

「道が通っても、ここを戻さなければ終わりではない」

「はい。これで試験へ進めます」

 昼前、危険区間を囲っていた赤縄の一部が、白縄へ掛け替えられた。

「人は通せます。荷車は、まだです」

 道路方は閉鎖札を裏返さない。

 最初に入るのは、昨日泥から回収した空荷車だった。車輪と軸を点検し、馬一頭をつなぐ。御者一人だけが乗り、左右を人足が歩く。

「一台。歩かせろ」

 車輪が新しい砕石へ乗った。

 ぎしり、と荷床が鳴る。暗渠の上を前輪が越え、後輪が同じ二本の線を踏む。水路番は吐口を、石工は路面の縁を見ていた。

 荷車は止まらず、第三荘側へ抜けた。

 空車、入荘。

 道路方の書記が、一つ目の欄へ印を置く。

 路面の沈みを目盛り縄で測る。変化は、許容札の内側だった。管から流れる水も濁らない。

「次。八袋」

 荘代が倉の方へ手を上げた。

 しばらくして、ミアの耳が先に動く。

「くる。むぎ、のってる」

 曲がりの向こうから、同じ荷車が戻ってきた。今度は荷床へ、領家印と|第三荘倉《だいさんしょうそう》の払出札を付けた麦袋が八つ積まれている。

 四百四十袋の、最初の八袋だった。

 御者は|手綱《たづな》を短く持ち、歩くより速くしない。車輪が砕石を噛む音が、一つずつ近づいた。

「荷札」

「八袋。領家買付け帳、残り四百三十二」

「進め」

 前輪が仮暗渠へ乗る。

 人足が息を止めても、車輪は止まらない。後輪が二本の管の上を越え、荷車は公道側の白杭へ出た。

 麦車、公道到達。

 二つ目の欄へ印が落ちる。

 道の下では水が流れ、道の上では麦が流れた。

 道路方の男は、路面、吐口、目盛り縄、積荷をもう一度見た。それからようやく、閉鎖札を外す。

「第三の|荘道《しょうどう》、軽荷車に限り再開。積荷は一台十袋まで。一台ずつ、歩速、日のある間だけ。雨の後と毎朝に沈みを測る。札の重さを超える車、自走する鉄の車、掘削機は通行不可」

 再開印が、三つ目の欄へ置かれた。

 荷車組合の男が、次の空車へ手を振る。倉前で待っていた二台目が動き始めた。

 満杯の蔵は、一歩も歩かない。

 その中身が、道を通って動き始めた。

 ◇

 運転札には、二日で六つの半刻欄が埋まった。仮設材の使用札と合わせ、道路方の書記が履行札を切る。

「空車の入荘、積載車の公道到達、再開印。三つとも揃った。機械賃、操縦賃、仮設材使用料は、この札で領家道路勘定へ回す」

 現場で銭は動かない。だが、無償でもない。支払期日と受取人を記した債権札を、ガルムが俺より先に確かめた。

「旦那の鉄を、ただで埋めたことにはなっとらんの」

「はい。恒久の石組みへ替える時に、二本とも回収します」

 仮設は、完成ではない。冬畑の表土は戻しても、一度失った作物は戻らず、恒久暗渠と毎日の点検も残る。

 それでも、昨日まで途切れていた共同道を、現地の御者が使い始めた。

 青白い表示が、麦車の後ろへ重なる。

【インフラ提供(第三荘共同道・仮暗渠):+1,000AP】

【現在残高:12,725AP】

【累計獲得:100,315AP】

【システムLvが4に上昇しました】

【新規解放:戦車/榴弾砲/ドローン/対空兵器】

【身体補正:総合3倍】

【亜空間格納庫:大型倉庫】

【定期保守契約:利用可能】

 目録の灰色だった一段が、青白く開いた。

【主力戦車(M1A2):150,000AP】

【偵察用小型機(市販級クアッド・熱線カメラ付):300AP】

 開いた棚には、十五万APの戦車が並んだ。

 その足元の道は、まだ二トンまでだった。


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【第30話 収支(AP)】
期首 14,225
収入 1,000
支出 2,500
期末 12,725
累計 100,315/システムLv4

【第30話 現地通貨】
期首 自由金 銀貨26枚+銅貨12枚
収入 0
支出 0
期末 自由金 銀貨26枚+銅貨12枚

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