第9話 撃つ、稼ぐ、買う 転生特典は米軍払い下げ?〜弾丸1発1ポイント。ハンヴィー1台から始める異世界軍事立国、気づけばイージス艦まで揃ってました〜

《転生8日目・夜》

【推定数:1,200±100/先頭到達まで:約38分】

 四十分は、配置を確かめているうちに溶けた。

 乳飲み子と幼い子供、老人は石蔵へ。歩ける者は東壁、担架、水、消火、弾薬運搬の持ち場へ散った。

 ハンヴィーのエンジンは、まだ切ってある。南西では発電機が低く唸り、二基の投光器だけが東の畑を白く照らしていた。

 俺は屋根の銃座。隣の独立足場にはヤンがいる。給弾台へ置いた三箱のうち、一箱だけが点検射の十発ぶん軽い。

 ミアは後方の低い物見台。首まで下ろしていたイヤーマフを耳へ被せ、白旗を左右の手に一本ずつ握っている。

 ガルムは南の水口だ。白石を越えた敵へ使う一基の起爆器を革帯へ括り、大剣を抜いて待っていた。

 銃座の下には、|髭《ひげ》の農夫と若い衆二人。戦いの最中に買う弾を、俺の足元まで上げる三人だ。

 最後に、数字を見る。

【現在残高:220AP/7.62mm弾:290発】

 二百九十発で、千二百体。

 最初の補充五百発には、千五百APが要る。今ある金では、百発箱を一つも買えない。

 だから最初の弾代は、まだ生きて東から歩いてくる。

「隊長」

 ヤンが、手袋をした両手を見つめた。

「まだ、震えてる」

「俺もだ」

「震えてても、七秒で替える」

「実戦で七秒ならな」

 ヤンは口元だけで笑い、予備銃身の把手へ一度触れた。この三日間で覚えた手順が、今夜初めて人の命を支える。

 投光器の縁へ最初の影が入る前に、ハンヴィーのエンジンを始動し、銃座へ戻った。

 ◇

 ゴブリンだった。

 一体が二体になり、二体が列になる。稜線の向こうから新しい頭が湧き続け、白い光の中へ緑の顔が重なっていった。

 先頭は光を嫌って足を止める。後ろは止まれず、前の背へぶつかる。その後ろから、さらに押される。

 群れは、一体ずつ考えることをやめていた。引き金へ指を添える。まだ撃たない。

 二百九十発しかないなら、遠い一体へ一発ずつ売る余裕はない。棘の前へ集め、最初の九十体を弾代へ変える。

 鉄条網の一列目が鳴った。絡んだゴブリンへ後続が乗り、細い鉄線が沈む。杭が一本傾いても、後ろから来る群れは止まらない。

 正面の五基。その前へ、緑の身体が折り重なった。

 俺は銃把から手を離し、ヤンの肩を三度叩く。二人で銃座の縁より下へ沈み、石壁の陰でヤンが起爆器を握った。

 五つの衝撃が一つになり、土嚢を殴った。砕けた杭と土が頭上を越え、車体の外板へ細かな音を降らせる。落ちてくる物がなくなるまで、誰も立たなかった。

 先にヤン、次に俺が銃座へ戻る。投光器の光は土煙で白く潰れ、その奥から、倒れなかった影だけが浮かび上がった。

【運用員還流:ヤン/ゴブリン90体×50%】
【+450AP/現在残高:670AP】

 ヤンが起爆器を置き、決めた通り五歩で給弾位置へ移る。さっきまで震えていた手が、最初の弾帯をまっすぐ支えた。

 村人の指が、村の最初の弾代を稼いだ。

「射撃、始めるぞ!」

 M240の安全装置を外し、引き金を半秒だけ引いた。

 重い連打が車体を震わせ、銃口の火が土煙を内側から照らす。肩へ返る力を押さえ、指を離した。

 照準を戻す。また半秒。五発のときも、七発のときもある。一発ずつ数えるのではなく、短く撃って、止めて、群れの形を見る。

 空|薬莢《やっきょう》が屋根から側板へ流れ落ちた。弾帯は、同じ速さで給弾口へ吸い込まれていく。

 物見台で右の白旗が上がった。ミアの指す先へ火線を移す。鉄条網の南寄りへ回ろうとした一群が崩れ、右の旗が下りた。

 言葉は聞こえない。旗と肩と、目で戦う。

 視界の隅では、十APの数字が途切れず流れていた。

 ヤンが空箱を俺の視野へ差し入れ、指を一本立てる。残る未開封は一箱。すでに百九十発近くを使った。

【現在残高:1,520AP】

 届いた。

「7.62mm弾、五百発!」

【7.62mm弾×500発:-1,500AP】
【現在残高:20AP】

 決済の直後、俺の真下——車体と土嚢の陰に白線で囲った場所へ、百発箱が五つ現れた。

 屋根にも、銃の中にも来ない。そこが三メートル以内で、唯一空けておいた場所だった。

 髭の農夫が一箱を胸まで上げる。若い衆が足場で受け、もう一人がヤンの左へ滑らせた。

 投票の朝、二つの箱の前で長く立ち止まった男が、今夜は誰より早く弾薬箱へ取りついている。

 ヤンは留め金を外し、次の弾帯の先を給弾口の脇へ揃えた。準備できる所までは、人の手で先に進める。それでも、今の帯が尽きる瞬間は来る。

 最後のリンクが消え、機関銃が沈黙した。突然戻った夜の音の中で、鉄条網が軋む。死体を踏み越えた影が、一列ぶん近づいた。

 俺が|槓桿《こうかん》を引いてボルトを後退位置へ止め、安全装置を掛けて給弾蓋を開く。その間にヤンが把手だけで熱い銃身を抜いた。

 赤くはない。それでも耐熱布を敷いた石板へ置くと、焼けた油の臭いが立った。予備銃身が噛み合い、次の帯を載せて蓋を閉じる。安全装置を外した。

「十一秒」

 機関銃が黙った時間を、ヤンが自分で数えていた。

「次で縮める」

 引き金を引く。

 金で買えたのは、弾薬箱が現れる所までだ。運び、開け、載せ、撃てる形にする最後の数秒は、人間にしか埋められない。

 撃つ。稼ぐ。買う。運ぶ。詰める。撃つ。

 この村の火線は、六つの動詞で繋がっていた。

【現在残高:470AP】

 ◇

 次の群れには、オークが混じっていた。

 短い連射を胴へ受けても、猪頭の巨体は前へ出る。後ろのゴブリンを蹴り、倒れた仲間を盾にして、網の切れ目を広げていった。

 狙うのは頭か膝。一体へ使う弾が増えた。倒れた巨体が新しい壁になり、その陰からゴブリンが湧く。

 向こうの補給は、こちらより太い。

 ヤンが左肩を一度掴んだ。次の百発箱が最後、という合図だ。

 俺は空箱を屋根から落とす。地面へ落ちる箱を見て、三人の運搬班が次の位置へ動いた。銃声の中でも、補給線は迷わない。

 補充した五百発が尽きる頃、鉄条網の向こうに空いた場所が広がった。だが、夜の奥にはまだ影が続いている。

【現在残高:2,470AP】

 次に必要な量を、迷う時間はなかった。

「7.62mm弾、八百発!」

【7.62mm弾×800発:-2,400AP】
【現在残高:70AP】

 八箱が白枠へ現れ、三人の手を渡って銃座へ上がる。残高は七十。だが弾帯は八百発ある。

 今夜は、財布の厚さより、足元へ届いた重量を信じるしかない。

 二本の銃身を、射撃の切れ間ごとに交互に回した。二度目の交換は九秒。三度目は八秒。

 四度目。壁へ投げつけられた石が車体を揺らし、排出された熱い薬莢がヤンの袖口へ入った。

 ヤンの肩が跳ねる。それでも先に弾帯を押さえ、射撃が戻ってから袖を振った。

 前腕には、細長い火傷ができていた。

 運搬班の若者も、割れた箱金具で前腕を切った。流れる血を服へ擦りつけ、次の箱へ伸ばそうとする。

 戦える傷と、放置していい傷は違う。

 八百発を使い切ったところで、三列の網の半分が、死体の重みに沈んだ。

【現在残高:2,270AP】

「手榴弾十個。戦場救急資材セット、一つ」

【手榴弾×10:-300AP】
【戦場救急資材セット:-300AP】
【現在残高:1,670AP】

 新しい二箱も白枠へ届いた。運搬班が弾薬と混ぜず、救護籠と俺の手元へ分ける。

 機関銃が途切れた隙に、担架班の女がヤンの袖を切った。火傷へ応急パッチを貼り、前腕を切った若者には消毒と圧迫包帯を巻く。

 二人とも、処置が終わる前から自分の持ち場を見ていた。

「戻れるか」

 銃声が止まっている今だけ、声が通る。

「戻る」

 答えも二人分、重なった。

 網の破れへ、ゴブリンが殺到する。密集した肩が、ひとつの塊になった。

 M240を安全にし、壁上へ移る。手榴弾を一個だけ受け取り、味方が全員伏せたのを見てから投げた。

 石壁の下へ全身を隠す。爆圧が土を叩き、欠片の雨が収まってから次を取る。

 二個目。三個目。四個目。

 四度目の衝撃が消えると、網の破れは倒れた身体で再び細くなっていた。

【討伐還流:+250AP/現在残高:1,920AP】

「7.62mm弾、五百発!」

【7.62mm弾×500発:-1,500AP】
【現在残高:420AP】

 五箱が現れ、三人の手を伝って上がり、ヤンの左へ並ぶ。

 残る手榴弾は六個。ここでは使い切らない。第一線を捨てるときの、最後の扉にする。

 同じ頃、南で別の爆発が土を持ち上げた。許可は要らない。白石を越えた群れへ使う——決めた通り、ガルムが自分の持ち場で起爆した。

【AP還流判定:対象外/未登録協力者】

 南の細道から、ガルムがこちらを見た。爆音の向こうでも分かるほど、露骨に機嫌の悪い顔だった。あとで酒の量を交渉されるかもしれない。

 正面では、爆発と銃弾を抜けたゴブリンが石壁へ取りついた。

 槍が突き下ろされる。鍬の刃が指を剥がし、女たちの投げる石が緑の額を壁の外へ押し戻す。

 帳簿へ一行も載らない戦果が、M240の両脇を支えていた。

 二枚の旗が、ミアの頭上で交差する。

 停止。

 引き金から指を離した直後、若い槍手が俺の射界へ身を乗り出した。髭の農夫が襟を掴み、壁内へ引き戻す。

 右の旗だけが上がり、銃口を右へ戻す。

 三日間の演習で、味方を一人も撃たずに済んだ。

 ◇

 波と波の間を繰り返すうち、夜はとっくに日付を越えていた。

 戦いは、同じことの繰り返しに見え始めていた。だが、繰り返したのは手順だけだ。敵の密度も、銃身の熱も、運ぶ者の疲れも、毎回違う。

 箱を上げる若い衆の足が、一度もつれた。髭の農夫は空箱を蹴り退け、自分の肩を踏み台にして次の箱を押し上げた。

 ヤンの交換は、七秒まで縮んだ。約束の数字だ。本人は数え終えるより先に、給弾位置へ戻っていた。

【現在残高:1,520AP】

 残る影は、まだ四百前後。

 最後の五百発を買えば、また底へ落ちる。

 買わなければ、今すぐ機関銃が死ぬ。

「7.62mm弾、五百発」

【7.62mm弾×500発:-1,500AP】
【現在残高:20AP】

 二十。

 MRE四食ぶん。ゴブリン二体ぶん。この村の命が、数字二桁の上へ乗った。

 髭の農夫が新しい箱を抱え上げる。息は切れていたが、足は止まらなかった。俺も止めない。

 薬莢の山が屋根の端から崩れ、地面へ金色の筋を作る。投光器の光には虫の代わりに土煙が舞っていた。

 五箱あった弾は、残り二百二十発。

 そのとき、二枚の白旗が交差した。

 停止。

 引き金を離す。銃声の消えた一拍で、ミアは右奥を指していた。

 投光器の縁。死体の坂の向こうで、ゴブリン三体ぶんの高さの影が立ち上がる。

 一つ、二つ、三つ。数える間にも、別の影が起き上がった。

 オーガ。

 群れの奥で歩いていた大物たちが、前へ出てきた。倒れたゴブリンも、折れた鉄線も、足場にしか見えていない。

 先頭の一体が走り出す。

 地面が揺れ、死体の坂が一歩ごとに低くなる。主群はまだ奥にいる。それでも最初の一体だけは、もう五十メートルまで来ていた。

 ミアの右旗が上がる。

 銃口を向け、引き金を絞った。

 短い点射ではない。途切れない連射が、大きな胸を叩く。

 当たっている。

 それでも、止まらない。周囲を走る小物ごと、さらに三十発を叩き込んだ。

【現在残高:520AP/7.62mm弾:190発】

 視界の隅で、場違いなほど澄んだ音が鳴った。

【累計獲得AP:20,000を超過しました】
【システムレベルが3に上昇しました】
【解放:60mm迫撃砲/対戦車地雷/装甲車両/野戦病院/建設重機——】

 流れる文字の向こうで、オーガが投光器の白い輪へ踏み込んだ。

 残弾、百九十。

 迫る巨体は、一体ではない。

「——次の仕入れだ」

━━━━━━━━━━
【第9話 収支(AP)】
期首 220
収入 +7,800
 M240戦果 +7,100
 正面クレイモア還流(ヤン・50%) +450
 手榴弾戦果 +250
支出 −7,500
 7.62mm弾 2,300発 −6,900
 手榴弾 10個 −300
 戦場救急資材セット −300
期末 520
累計 20,045/システムLv3

【主な手持ち】
7.62mm弾190発/手榴弾6個/M4用5.56mm弾134発/9mm弾213発/MRE11食

※箱が届いても、銃は撃てません。運び、開け、詰める人の手が、二百九十発を二千四百発の火線へ繋ぎました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次